Vol. 09

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第9回 店頭販売を支える本部担当者の役割」 新しいビジネスには無限のチャンスがある

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.11.01

“花形部署に変貌したリテール企画・推進業務”

今でこそ投資型金融商品の企画・推進部署は銀行内の花形ともいえるポジションを占めていますが、私が配属された2000 年秋ごろは、営業店の仲間から「河合も大変な仕事だけど頑張れよ」などと励まされるような存在でした。周囲から同情されるほど実績の上がらない業務を、たった1 人で担当していたわけです。ところがわずか数年の間に、状況は大きく変わっていきます。リテールの企画・推進は銀行業務における重要な柱となって、部署自体も大きな組織になりました。

とはいえ、問題がなくなったわけではありません。銀行にとって、投資型金融商品の販売は依然として新しいビジネス領域であり、今後も新たな取り組みが必要な分野であることに変わりはありません。しかも一方で、2000 年当時に比べると企画・推進業務に対する注目度も高く、「新商品は必ずある程度の数字を達成しなければならない」というプレッシャーも加わって、本部担当者が難しい立場に立たされる場合も少なくないでしょう。

しかし、ぜひご記憶いただきたいのは、こうした新しいビジネスは無限の可能性を秘めていて、それに携わることは自分を飛躍させる大きなチャンスでもあるということです。私自身、退職後に起業をしてこのような連載を執筆できるようになった今も、店頭販売の草創期にめぐり合わせた幸運をつくづくと感じています。現在、本部で企画・推進業務を担当している皆さんも、ぜひ新しいことに果敢にチャレンジして、自らのキャリアアップにつなげていただきたいと思います。

では今後、店頭販売をさらに伸ばしていく次の作戦としては、どんなことが考えられるのでしょうか。

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン代表(2005年当時)の山本真司氏は「まだまだ儲かる銀行のサイン」として、①顧客への説明パンフレット、広告などがちぐはぐ、②新商品、新施策と現場の実情に差、③勝手な思い込みで新しい顧客ニーズに気づかない、④現場の行員を二等市民扱い(本部がエライ)、⑤顧客クレーム処理は現場任せ、⑥本部との調整が顧客にシワ寄せ、⑦評価項目過多症、⑧一度うまくできた事はいつでも全行でできると勘違いする、といったことを指摘されています(山本氏の講演から)。

ここに、店頭販売をさらに伸ばすためのヒントがあると、私は考えています。

“店頭販売を伸ばすために本部がやるべきこと”

1.真に有効な販売支援ツールの提供 新しいビジネスゆえに思いつきで作ったパンフレット類が、今もそのままになっていませんか。

また商品提供会社のポスターなどに統一感がなく、顧客に混乱を招いていませんか。総合的な資産運用の提案ツールなどを新たに作れば時間もお金もかかりますが、一定レベルの均一化されたサービスを提供するにはパンフレット類をこまめに更新し、新しいデータで的確な提案ができる体制を整える必要があります。店頭販売では「販売支援ツールなどの事前準備」がきわめて重要で、本部担当者はテラーの方々に、真に販売をサポートできる有効な武器(アイテム)を提供しましょう。

2.市場や現場の実情に即した対応
新商品の導入やキャンペーンなどは、マーケット環境の変化によってタイミングがずれることがあります。たとえば「円高トレンドの中での外貨商品のキャンペーン」や「株式市場が大幅に下げている環境での株式ファンドの導入」など、マーケットの実情にそぐわない販売方針に固執することは、顧客ニーズに反するだけでなく現場のモチベーションも下げてしまいます。マーケット環境や現場の実情に即した、臨機応変な対応が必要ではないでしょうか。

3.業績評価基準の明確化
最近はわかりませんが、かつては目標が販売額なのか残高なのか、または手数料収入なのかあいまいで、評価方法が頻繁に変更されることも珍しくありませんでした。このように評価項目が多すぎると現場を混乱させるだけでなく、長期的な観点で顧客ニーズに合った提案が難しくなります。

支店評価のルールをシンプルで普遍的なものにすれば販売員の評価基準も明確になり、さらには「モチベーションを維持した販売力のアップ」にもつながると思います。

4.販売員を守る意識と体制
販売が拡大すれば、必然的に顧客からのクレームも増加します。むろん現場の責任で対応することが基本ではありますが、本部が「しりだけ叩いてフォローしない」のでは、現場のモチベーションは下がります。常に「販売員の味方である」という姿勢を、本部は忘れてはいけません。

また「誤解を招くセールスは販売員のリスクとなること」を、研修等で徹底することも重要です。

とくに成績上位の販売員に、販売額を抑制するかのような指導は徹底しにくいものですが、「販売員を守る」ために本部が定期的にチェックをし、安心して販売できる環境をつくる必要があると思います。

一方で「本部の壁」が厚く、顧客にシワ寄せが行くようなことも、あってはなりません。「本部から言われているので……」といった説明しかできない販売員はお客様の信用を失い、当然、販売員のモチベーションも下がります。

5.キャンペーンではなくコンサルティング主体にこれは私も大いに反省しているのですが、販促キャンペーンや単位型投資信託の導入などの際に、しばしば顧客ニーズを無視し、ひたすら数字の獲得を目指す傾向が見られます。しかし、こうしたワンパターンの販売スタイルは、間違いなく販売員を疲弊させます。理想主義と怒られそうですが、なるべく早くカウンセリングやコンサルティング主体の、顧客本位の販売手法に転換する必要があるのではないでしょうか。

6.商品提供会社との連携強化
商品提供会社との信頼関係の構築は、本部担当者の重要な仕事の一つです。多くの類似商品が競合する金融機関で取り扱われている状況では、「自分たちはなぜその商品をお薦めするのか」を販売員が明確に理解しておく必要があり、そのためにも、商品提供会社の協力は欠かせません。

また商品提供会社は、同じ目的をもったパートナーです。商品企画や業界動向の把握、または研修講師の派遣、企画・推進業務のフォローなど、商品提供会社に頼ることは今後ますます多くなっていくでしょう。お互いが長きにわたるパートナーとして、尊敬し合える関係を築くことが必要だと思います。

7.顧客ニーズの発掘
お客様のニーズを、最も直接的に把握できるのが店頭です。何度もお話しましたが、テラー研修などを通じて効率的に顧客ニーズのマーケティングを行いましょう。また、月に1回は繁忙店の店頭で自らセールスを行うなど、なるべくお客様に近い位置で幅広くお客様の声を集めてみてはいかがでしょうか。

私もヘルパーとして、ずいぶん店頭に立ちましたが、店頭でごく普通のお客様に接することが何よりの勉強になりました。その経験は新しい企画に生かされ、さらには研修における説得力を倍増させることにもつながります。本部の仕事は多忙ゆえ容易ではないかもしれませんが、ぜひ現場に出て「自ら選択した商品を自らセールスし」、「自ら作成した販売ツールや帳票類を実際に使ってみる」ことによって、本当の顧客ニーズを発掘すべきだと思います。

以上が、私の考える「本部のやるべきこと」です。店頭に限らず、あらゆる販売推進にもいえることですが、なかなかできていないのが実情ではないでしょうか。自らの反省を込めて、述べさせていただきました。

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