Vol. 06

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第6回 店頭販売比率を高めるために(3)」 集合研修のコンセプトを明確に

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.08.01

“「意識」と「研修方法」と「セールス手法」の改革へ”

最近は、多くの金融機関で集合研修の方法が見直され、実戦的なロールプレイングなども導入されているようです。また運用会社や保険会社による特色ある集合研修も、盛んに行われています。

では現実に店頭販売実績を伸ばしていくには、どのような集合研修が効果的なのでしょうか。
かつて私が在籍していた金融機関で、店頭販売比率の向上に最も大きな影響を与えた集合研修がスタートしたのは、2001 年7月のことです。その時の研修のコンセプトは、下記の3つの「改革」から成り立っていました。

“意識の改革”

①この業務でこそ、女性は活躍できる――男性以上の実績を上げ、会社から必要な要員と思われる仕事はこの分野です。一緒に頑張りましょう。

②豊かな老後のためには「投資」が必要――将来の不安に備え、金融資産の管理・運用を真剣に考えなければならない時代が来た。一緒に学びましょう。

③お客様を不幸にする商品を売るのでない――購入するかしないかを決めるのはお客様です。「投信を薦めるのはお客様のため」という自信をもって、セールスしましょう。

“研修方法の改革”

①本部の自己満足的な研修からの脱却――楽しく、かつ厳しい「参加型研修プログラム」を作成し、通りいっぺんの「講義」は行わない。

②常に実戦的であること――基本は、ロールプレイとディスカッション。目標は「翌日には実際にセールスし、成約できる」こと。

③継続的な研修――1 度受講すれば資格を与えるような研修ではなく、テラーを続ける以上は永遠に受け続けなければならないような、継続的研修を目指す。

④外部講師の活用――内部スタッフは研修のプロデュースに徹し、特に知識の不足している分野の講習や研修資料の作成はプロに任せる。

“セールス手法の改革”

①新しいセールス技術の習得――旧来の優秀テラーの手法にとらわれることなく、積極的に新しいセールス技術を取り入れる。

②話を「聞く」ことの重要性を知る――しゃべりのうまい人が、良いセールスレディーではない。
話のスムーズさを競うロールプレイを否定し、お客様の話を聞くことの大切さを強調する。

③販売支援ツールの活用――販売支援ツールの活用は大切なセールススキルであることを理解し、優れたツールを効果的に使いこなすことの重要性を、ロールプレイを通じて浸透させる。

④成功例と失敗例の共有化――グループディスカッションを積極的に導入して悩みや問題点を全員で共有し、セールスをすれば誰でも成約できる雰囲気をつくる。
テラー向け研修は、このようなコンセプトのもとに始まりました。そしてその過程で、最も重要なのは「研修を継続すること」であると、気づかされたのです。

“研修を継続することでモチベーションが伝播する”

支店の人繰りや本部講師の確保など人的なコストのかかる集合研修には、批判的な意見も少なくありません。新商品の導入に伴う資格取得や事務処理方法など必要最低限の研修でさえ負担になっているのですから、テラーのスキルアップのために1人の行員を年に4回も招集する集合研修には賛否両論がありました。研修は効果を上げるため20名程度で行いますから、すべてのテラー(400名)に年4回の研修を実施するには、年間およそ80回もの研修が必要になるからです。

しかし、このように本部講師や支店に負担をかける研修も、継続することによって販売実績以上の副産物が現れ、それは従来の集合研修に対する認識や位置づけを大きく変えることとなりました。

通常、集合研修といえば、単なるセールスのトレーニングや知識の詰め込みの場所、あるいは、ちょっとした息抜きの場と考えている人も多いのではないでしょうか。特に受講経験のない役席や支店長の方々には、そのような傾向が強いように思われます。しかしぜひ一度、研修会場を覗いてみてください。支店では元気がないと思われている人が、他の受講者から刺激を受けて意識を高めていく様子を、間近に見ることができるはずです。

集合研修を行うに当たって、私たちが最も気をつけたこと。それは、参加者同士の情報の共有化であり、1人の受講者の高いモチベーションを他に伝播させ、受講者同士が刺激し合うことで、さらに高いモチベーションを創造させることです。そしてそのような研修は、講師の側にも大きな副産物をもたらしました。

“研修は情報収集の場でありマーケティングの場でもある”

講師側にとっての副産物とは、「研修を制する者は情報を制す」ということ。テラーたちのさまざまな声をじかに聞くことで、いち早く現場の情報を得ることができたのです。さらに、トップダウンではなくボトムアップで情報を伝えること、つまりテラーを通じて全店に必要な情報を伝えることもできるようになりました。

本部にいると現場の的確な情報を得るのは非常に難しく、一部の誤った情報が現場の意見としてまかり通ることもありがちです。しかし研修を行うことは、そのような間違った情報を否定できる確実な情報ソースをもつことにもなります。

具体的には、業務推進上の問題点の洗い出しをグループディスカッションのテーマにする方法などが有効でしょう。当然ながら、そのまとめを活用することによって営業戦略上のソリューションを導くことも可能ですし、個々の情報からは研修の推進に否定的な支店も把握でき、「押しかけ勉強会」のリスト作りにも役立ちます。

また研修の場を利用すれば、全店に向けた商品やキャンペーンのプロモーションが効率的にできるだけでなく、逆に新商品を導入する際のマーケティングも容易に行うことができます。「こんな商品があったら買いたいと思いますか」「この商品はお客様に薦めたいと思いますか」といった簡単なアンケートでさえ、研修の場がなければなかなか実施できないものです。

“営業ツールのマーケティングも集合研修の隠された効果”

「真に有効な営業ツールとは、どのようなものか」「このツールで、分散投資の必要性が理解できるのか」――多くの本部担当者が、こうした疑問を抱いているのではないでしょうか。そんな時には、試作段階でも構わないので、そのツールを使ったロールプレイングをカリキュラムに組み込んでみることをお勧めします。

すると、「本当に使われるのか」「改良点はどこか」などを実践的に把握することができます。そのうえ面白いことに、研修でセールスストーリーがイメージできると、「早くそのツールでセールスしてみたい」という欲求も生まれてきます。そして、次にそのツールによる成功体験をカリキュラムに反映すれば、新しい使い方を理解したテラーがさらに有効に使い始める。こんな好循環も生まれるのです。

集合研修には、このように隠された効果がたくさんあります。講師側はそうした効果を十分に意識しつつ研修を行い、受講者も常に新鮮な気持ちで集合研修に臨むことができれば、店頭販売比率も必然的に高まっていくのではないでしょうか。

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