Vol. 05

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第5回 店頭販売比率を高めるために(2)」 鍵はテラーのモチベーション

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.07.01

“実績ランキングの公表が行員のやる気を刺激”

「テラーの方は、販売実績に応じて給与が上がるのですか」。多くの金融機関の方から、こんな質問を受けました。答えはもちろん「NO」です。また、最近はしばしば販売上位者向けの特別研修も行われていますが、多分それだけでは、テラーがこんなに動きだすことはなかったでしょう。ではなぜ、テラーのモチベーションが上がったのでしょうか。以下は、かつて私が在籍していた地方銀行での経験です。

2002年上期にリスク限定型投信の導入で爆発的に販売額が伸びたときには、渉外を中心に短期間で目標を達成する支店が目立っていました。ですから当時は、テラーの数字が銀行全体の販売額に影響を及ぼすという認識はありませんでした。

もちろん、店頭販売比率などという指標も存在していません。個人の実績を集計していなかったため、支店ごとの販売額はわかっても、誰が投資型金融商品を売っているかは明確にとらえられていなかったのです。

しかし02 年下期になると、研修や支店勉強会でロールプレイを体験したテラーがメキメキと力をつけていることが実感できました。そこで全店の販売員の実績を件数、金額ごとに集計し、個人渉外、法人渉外やテラーなど担当ごとのランキングを社内LANで公表することにしたのです。ここでのポイントは、①販売金額よりも販売件数を重視したこと、②なるべく多くの営業員の名前が掲載されるようにしたことです。

すると、予想どおりの現象が起きました。今まであまり注目されなかった郡部のベテランテラーや渉外担当、意欲的な若手テラーなどが、次々とランク入りするようになったのです。それまで運に恵まれなかった人達に、急にスポットライトが当たったわけです。これは、多くの行員のやる気を刺激しました。

“現状では効果の薄い販売歩合給制度の導入”

現在、投資型金融商品の販売において、販売実績に応じた歩合給を採用している金融機関も少なからずあるでしょう。しかし私は、他の環境をそのままに歩合給を導入することには賛成できません。理由は3つあります。

第1は、過程が評価されないからです。実績数字に表れない営業のプロセスを評価しないのは、管理職の怠慢ともいえます。

第2に、アフターフォローがおざなりになるから。手間のかかるクレーム処理などを引き受ければ、報酬を得る機会が減ります。そんな販売員の意識は「販売時だけ一生懸命」な姿勢となって、必ず顧客に伝わるからです。

そして第3の理由は、報酬だけがモチベーションを上げるものではないからです。当時、私と一緒に仕事をしたテラー達は、給料や地位だけのためにセールスをしてはいませんでした。彼らを頑張らせていたのは「新しい業務にチャレンジする向上心」や「会社の収益部門に初めて貢献しているという自負心」であり、「お客様に新しい提案をして理解してもらえる喜び」だったのです。

“店頭販売比率が低いのはマネジメントに問題?”

販売員実績のランキング公表は、それなりにインパクトがありましたが、一方で02 年下期には、投信販売に対する渉外担当の注力が、他の業務に支障をきたしているとの見方が出はじめました。

そこで、テラーの販売実績がいっそう注目されるデータを公表することにしました。それが「店頭販売比率」です。

店頭販売比率を公表した時点で、全店では件数の50%、販売額の30%が店頭で占められていましたが、支店ごとの数字が公表されると、次のような現象が起きました。まずは、店頭販売比率が高い支店の活動事例がブロック会議などで紹介されるようになり、それとともに、今までテラーによる販売など重視していなかった支店から、勉強会開催の依頼が急に増えてきたのです。

しかし「何とかしてテラーの実績を上げて欲しい」という支店長の依頼に応じて支店を訪問すると、「何しに来たの?」と敵意むき出しのテラーや、「関係なーい」と何を言われても反応なしのテラーなど、様々な難敵が待ち受けていました。そして店頭販売実績が上がっていない支店は共通して、「雰囲気が暗い」「渉外とテラーのコミュニケーションが悪い」「テラーリーダーが超ネガティブ」などの特徴をもっていたのです。つまり、販売の不振はマネジメントに起因することが多く、そのような支店では当然ながら、一度の勉強会だけでは実績は上がりませんでした。

“勇気づけ、きっかけを作り成果はすぐに褒める”

それでも勉強会を重ねて実績が伴ってくると、少しずつモチベーションも上がってきました。それは、「実績を上げろと言われるのは嫌」でも、「実績が上がるとうれしい」もので、「他人に成果を認められたい」という気持ちは、程度の差こそあれ誰もがもっているものだからです。

支店勉強会では、そのようなテラーの気持ちを販売意欲につなげていくために、①セールスする勇気をもってもらう、②成果に結びつくきっかけをつくる、そして③うまくいったらすぐに褒めるということを、いつも念頭に置くように心がけました。

①セールスする勇気をもってもらうには、「ロールプレイング」が最も効果的です。といっても、他のテラーの見本となるように演じてもらう必要はありません。もちろん、見せしめのようなロールプレイはもってのほか。やらされたテラーは、支店の役席にも本部担当者にも敵意さえ抱き、モチベーションはいっそう下がってしまいます。

ロールプレイングで大事なことは、練習を通じてセールスする自信をもってもらうことです。「この資料を使って、こう話せば、こんなに簡単にセールスできるんだ」「思いのほか簡単に話せた」「これなら私でもできる」という自信と、「明日、早速チャレンジしてみよう」という勇気がわいてくればしめたものです。

②成果に結びつくきっかけづくりには、「明日は必ず、お客様に買っていただけます。実績が上がったら私の携帯電話に連絡してください」というような約束も有効です。もちろん、こうした暗示が効力をもつためには「必ず次の日に実績が上がるようにする」という講師側の意気ごみが必要で、翌日が休みである金曜夕方の勉強会を避けるなどの配慮も大切です。それまでまったく実績のなかったテラーから「投信が売れました」と連絡があると、本当にうれしかったものです。

③勉強会のフォローとして成果を上げたテラーを褒め、「本部担当者が自分を気にかけてくれている」と感じてもらうことも、モチベーション向上には非常に効果的です。特に店頭販売実績が悪い支店の多くは、えてして店内のコミュニケーションが不足しているもの。「○○さん、頑張っていますね」と声をかけることが、次のセールスに向かう原動力となるのです。

研修や勉強会だけでその支店のマネジメントまで変えることはできませんが、1人でもテラーのモチベーションが上がれば、その活動には大きな意味があります。やがて、それが少しずつ周りの人達にも伝播し、「お客様に感謝されたい」「楽しく仕事をしたい」「意味を感じられる仕事をしたい」という気持ちを複数のテラーや上席者で共有できるようになれば、必ず店頭の販売比率も上昇するからです。このような勉強会を通して最もモチベーションが上がっていったのは、一生懸命頑張っている支店やテラーとともに仕事ができた私自身だったかもしれません。

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