Vol. 04

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第4回 店頭販売比率を高めるために(1)」

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.06.01

“テラーに求められている4つの資質”

いまテラーに求められているものは、①商品知識、②専門知識、③コミュニケーションスキル、そして④モチベーションの4つである――先日、ある地銀本部の方とお会いした際に、うかがった話です。

リテール分野に非常に力を入れているその地銀の方に、この4点について自己採点をしてもらうと、①◎、②○、③△、④△という結果でした。そして、「商品説明はスムーズにできる。専門知識も経済新聞を読むなどして、少しずつ身についてきた。ただし、税金などの知識はいまひとつ。一方で、コミュニケーションスキルはまだまだ弱い。特に、商品説明はスムーズでもお客様とのコミュニケーションがうまくいかず、販売不振になってしまうケースが多い。モチベーションは、もっと高めるために努力中」というのが、そのとき聞いた解説です。

しかしこの銀行のように、専門知識についてはテラーが始業前に経済新聞の読み合わせをするまでになり、コミュニケーションスキルやモチベーションについてもさまざまな取り組みをされている金融機関は、まだまだ少数ではないでしょうか。さらにその銀行では、リテールで活躍している男性の渉外担当を法人業務にシフトし、女性販売員をリテール営業の中心にすえる方針のようです。

今後はますます、店頭における販売に勢いがついていくことでしょう。

かつて私が在籍していた地方銀行は、今でこそ店頭販売では地銀でトップクラスの実績を誇っていますが、5年前を振り返ってみると①△、②×、③△、④△といった状況でした。投資型金融商品の販売の中心は渉外担当であって、店頭販売員には得意とする商品もなく(本来は、すべて得意であるべきですが)、経済新聞にはほとんど興味がわかず、高いのはモチベーションというより、むしろプライドだったような気がします。

では、私のいた銀行は、どのようにして店頭販売比率を飛躍的に上昇させることができたのでしょうか。ポイントは、「商品」「環境」「仕組み」「ツール」「モチベーション」「研修」の6つに分けることができると思います。

自信をもって紹介できる商品を販売員に提供する

“商品”

ご多分にもれず私が在籍していた銀行でも、店頭販売が増えた一番の原因は定期分配型投信の導入にありました。毎月分配型ではなく3カ月ごとに分配するファンドでしたが、「100万円で3カ月ごとに○○円の分配金が期待できます」という定期分配型商品の魅力が、多くの顧客の目を投資信託に向けたことは確かです。自信をもって紹介できる商品を販売員に提供することは、店頭販売比率を高める上で決定的に重要な戦略といえるでしょう。

しかし一方で、金利が上昇した際にどこまであのフレーズが通用するかわかりませんし、商品の売れ筋も時代とともに変化します。商品選定担当者の目利きは、非常に難しくますます重要になっていくでしょう。とはいえ説明しやすい商品を入れるだけで、販売額が飛躍的に増えるはずもありません。次の重要な戦略は、「店頭でセールスする回数を増やす」ことです。

テラーのセールス機会を増やすための工夫

“環境”

私のいた銀行では、内部事務担当も法人融資担当も、すべての行員が投信販売資格をもつようにしました。当初はそれで店頭販売が伸びると考えていたかどうかは疑問ですが、その後、必要に応じて販売窓口を増設できたのも、資格をもったテラーを多数確保できていたからです。これからのリテール業務の重要性を考えれば、銀行員は自ら進んで資格を取るべきでしょう。

そして次に、セールスできる場所を増やしました。窓販開始当時は、店頭で投資型金融商品を販売できる場所は専用端末のある窓口に限られていました。そこで、既存のローカウンターを預金窓口と誤認されないように整備し、全店のローカウンターで投資型金融商品を販売できるようにしたのです。

窓口増設といっても、当時は窓販が利益の上がる業務とは認識されていなかったので、改装費用はどこからも出てきません。そこで、ローカウンターの案内表示板にある預け入れ、払い出しなどの預金をイメージさせる文字を表示板と同色のシール(1 枚500 円)で隠すという、苦肉の策で対処しました。業者に頼まず行員自身の手で行ったので、近くで見ると継ぎはぎがわかってしまいますが、たった15 万円で一夜にして販売窓口が300 カ所も増えました。しかしその効果は絶大で、1人のテラーが1 日20 人のお客様にセールスできるとすれば、1 日で6000 回もセールス機会が増えたことになるわけです。

“仕組み”

販売できる場所は飛躍的に拡大できましたが、そのカウンターには販売専用端末などありませんし、そのままではセールス機会は増えません。次に工夫することは「セールスの声をかけやすい仕組みづくり」でした。

慣れない商品をセールスすること、特に最初の一声をかけることは、テラーにとっては非常に苦痛です。また当時は、投資型商品に対してネガティブな意識をもつテラーも少なくありませんでした。そこで、キャンペーンなどを企画してセールスしやすい仕組みを用意し、セールスが苦痛でなくなるような条件を整えていきました。

今では一般的になりましたが、「その商品を購入すると定期預金の利息が1%になる」などというキャンペーンです。どんなに自信のないテラーでも、「キャンペーンをやっているのですが……」なら、気楽に声かけできるはずですからね。

容易に反復セールスができるツールを充実させる

“ツール”

同時に、店頭販売に適した販売ツール作りにも力を入れました。窓販開始直後は、運用会社から提供される販売用ツールは多種多様でした。コストのかかる紙芝居形式のものや、冊子タイプのものも多かったと思います。銀行本部も、立派なツールが販売に役立つという感覚だったのでしょう。

しかし実際には効果的に使われず、捨てられたものも少なくなかったはずです。そこで発想を切り替え、テラーが3分間で容易に反復セールスができ、顧客に誤解を与えず無差別にドンドン配付できるツールを運用会社の方と共同で作成しました。

それは、商品の主要なポイントをA4判1枚の表裏にまとめ、図などを示しながら説明できるものでした。このツールは、後に説明します研修や支店勉強会のロールプレイで徹底的に利用した結果、店頭の販売実績は着実に上がっていきました。

A4判1枚ものツールは、まず各支店に100~200 枚配付し、支店に在庫がなくなると100 枚単位で請求がきます。「請求の多い支店=店頭販売実績が高い支店」という傾向が現れたのは、本当に活用されていたからでしょう。やがて同種のツールは他の金融機関でも使われるようになり、運用会社の方からもコスト削減効果を喜んでいただきました。

店頭販売比率を上げるポイント「モチベーション」および「研修」については、次回以降お話させていただきます。

BACK NUMBER