Vol. 07

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第7回 伝わる研修を行うには」 研修は考え方を伝える最も優れたメディアである

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.09.01

“継続=マンネリこの危険性をなくすために”

2001年7月、私にとって一番思い入れが深く、また店頭の販売実績に一番影響を与えた「テラー向けスキルアップ研修」がスタートしました。紆余曲折もありましたが、2年後には以下のような効果が現れてきました。

①講師が「ロールプレイを5分間、始めてください」と言えば、その場で初めて顔を合わせたメンバーが相手でも、躊躇なくロールプレイが始まるようになっていた。

②最近の成功事例についてのグループディスカッションが、いつまでも話題が尽きないくらい盛り上がっていた。

③休憩時間になっても受講者同士が、業務推進上の悩みや愚痴などを年齢や地域を越えて話し合っていた。

④受講者間のスキルや意欲の差が、ほとんど感じられなくなってきた。

⑤若手の中に、ベテランをリードする意欲の高い行員が出てきた。

こうして、かつては何に対しても「出来ない理由」しか言わなかったベテラン行員が、驚くほど明るく真剣に、ロールプレイに取り組むようになっていったのです。

なぜこのような研修の環境が生まれたのか。それは、これからお話しする「常に刺激的な研修」を行ったからです。

メンバーの入れ替えは頻繁に

“販売実績順の班編成”

連載の第5 回に担当者ごとの販売実績ランキングを公表したことをお話しましたが、研修の班編成も、半年毎の販売実績をもとに3 コースにクラス分けを行いました。

すると大方の予想に反して、販売実績が良好なA クラスが有名なベテランテラーで占められることがありませんでした。それは、若手や今まで運に恵まれなかったテラー達がどんどんA クラス入りをしてきたからです。もちろんランクダウンもありますから、常に違う顔ぶれで研修が行われていたことになります。そして、毎回のクラス発表は銀行内でも話題となるようにもなったのです。

また「3名1 組のロールプレイング」や「6名で行うディスカッション」の研修でも、テーマごとにメンバーをシャッフルしました。なるべく多くの人と情報交換ができ、同時に緊張感を持続できるように工夫したわけです。

突然ですが、みなさんの「最も記憶に残る研修」はどのような研修でしたか。このような質問に対して意外に多いのが「誰々さんと一緒になった研修です」という答えです。同じ業務に就く尊敬できる人との出会いは、仕事のモチベーションを間違いなく上げることになります。ですから、グループ編成を考える手間は大変でしたが、支店規模や入行年次が偏らないようにするだけでなく、テラーの性格まで考慮して班編成を考えました。その結果、受講者の間にカリキュラムや講師の力に関係なく好循環な刺激が生まれ、モチベーションが高まっていきました。

受講者も回を重ねるごとにこのようなやり方に慣れ、初めて会ったテラー同士でも臆することなくロールプレイやディスカッションができるようになりました。むろん前向きな話だけでなく、上司に対する愚痴などが少なくなかったことも事実ですが、ガス抜きも研修の大きな役割といえるのではないでしょうか。

“外部講師の活用”

受講者が研修に慣れることは良いことですが、マンネリは馴れ合いに陥る危険性があります。そこで運用会社や保険会社の方にも、ずいぶん協力を仰ぎました。(最近では、運用会社や保険会社の方に研修のコンペを行っている金融機関もあるようです。)社内研修に外部の人を入れることを気にする向きもありますが、積極的に取り入れるべきだと思います。社内の人間が言うと角が立つようなことも、外部講師に代弁してもらうと、受講者も素直に聞き入れる場合があります。

ここで気を付けていただきたいのは、「丸投げをしない」ということです。研修は責任あるプロデューサーのもと統一感を持つ必要があります。外部講師を活用する時には、事前の打ち合わせと事後のフィードバックを徹底し、自由に意見交換できるパートナーシップを運用会社や保険会社の方と保つことが重要なのです。

“バリュエーションのある研修”

実戦的な研修といえばすぐ「ロールプレイング」が連想されますが、その前に商品の理解力を高めたり、顧客のニーズを引き出す考え方も理解してもらわなければなりません。そのような研修の例として、ポストイットを活用した「ブレーンストーミング」があります。以下は、具体的な研修の進め方です。

★研修の目的――為替の変動に影響を受ける3商品(ドル建て債券に投資する投資信託、外貨預金、ドル建て定額年金保険)の特徴と、そのセールスポイントを理解する
★人数――6名×4グループ

①3色のポストイット(7×12cm程度)とサインペンを用意する。

②まずはアンケート。「いま手元に300万円があります。今日から投資をする場合、あなたなら何を選びますか」。現状の知識の中でどんな商品が好みか、受講者に聞いてみます。

③アンケートの結果、外債ファンド15名、外貨預金6名、外貨建て年金保険3名となりました。
その人数をホワイトボードに書きとめます。

④ポストイットの活用。最初に外債ファンドの良い点を、ピンクのポストイットに3分間でできるだけ多く記入させます。

【注意点:事柄1つにつき1枚使用する。1人5枚以上を目標。パンフレットなど見ても構わないが、短時間に集中して考えさせる。時間は、受講者のレベルに応じて短縮してもいい】

⑤続いてピンクのポストイットに外債ファンドの悪い点、黄色のポストイットに外貨預金、青色のポストイットに外貨建て年金保険の良い点・悪い点を、順に記入させる。

⑥それぞれが記入したポストイットを3商品の良い点・悪い点に分けて、模造紙に貼り付ける。
これによって各商品に対する他人の考え方を知ることができ、セールスの幅が広がっていく。

【注意点:同様の事柄は重ねて、似たような事柄は並べるなど整理しながら貼り付けるようにする】

⑦グループ単位でブレーンストーミング。次に、それぞれの商品はどんな顧客に合っているのかをグループで考えさせる。

【注意点:時間がない場合は、1商品だけに絞ってもいい】

⑧おのおのの商品の良い点・悪い点、対象となる顧客について、グループの代表に発表させる。講師は発表を聞きながら足りない部分を補足し、ホワイトボードにまとめていく。

⑨最後にもう一度、「いま手元に300 万円があります……あなたなら何を選びますか?」と、同じ質問をする。すると必ず最初の答と違いがでるので、以下のようなまとめを行います。

「同じように為替の影響を受ける商品でも、色々な特徴があります。一方でこんなに選択肢があるのに、テラーの得意な商品だけをセールスされたお客様は不幸だと思いませんか」「では次のパートでは、みなさんの理解度がいちばん高まった外貨建て年金保険について、ロールプレイングを始めましょう」いかがでしょうか。このように一方的に伝えるのではなく、2 時間以上のグループディスカッションを経過することで、次に行うロールプレイングへの取り組みも大分変わっていきました。

以上が私たちが実践した「刺激的な研修」の方法です。このように受講者を常に新鮮な気持ちで取組める工夫をすれば「研修とは考え方を伝える最も優れたメディアである」ということもご理解いただけるのではないでしょうか。

研修方法はその金融機関独自のスタイルがあると思いますが、興味をもたれれば是非一部でも取り入れ見てください。

“研修講師に必要なスキルとは”

みなさんも経験があると思いますが、いつも寝てしまう講師の方っていませんか。もちろん受講者の取り組み姿勢も問われますが、そのような場合は、カリキュラムの組み方や講師のスキルに問題があるのではないでしょうか。では講師に必要なスキルとはどんなことなのでしょう。

ここでみなさんに質問です。講師となる方を人選する場合①その業務に精通した知識がある方②知識はないが人気者、どちらを選びますか。私は絶対に②の人気者を選びます。それだけ継続的な研修を行う講師のキャラクターが重要な要素だと思うからです。

もちろん精通した知識も重要です。しかし、講師のキャラクターやスキルも刺激的な研修を行う上で非常に大切なことです。私が考える講師に必要なスキルは①熱意②創意工夫③柔軟性④自分が主役でなく受講者が主役だと考えること⑤知識⑥人間的魅力です。

伝わる研修を行うには、このようなスキルを持つ伝える側の努力がとても重用になります。

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