Vol. 01

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第1回 リテール営業の時代がやって来た!」

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.03.01

”窓販担当者の努力の結晶”

2005 年末の銀行窓販による公募株式投信の残高は、19 兆9086 億円。この1年間で7 兆2756億円(前年比+58%)も増え、バブル期並みの公募株式投信の増勢に大きく貢献しました。個人年金保険の数字も合わせて考えると、まさに「銀行窓販絶好調!」と言ってもいいでしょう。

また、定年を間近に控えた団塊の世代の退職金が80 兆円とも言われていることを考えれば、今後もさらに「窓販絶好調時代」が続くと予想されます。新聞などではこうした状況を、「貯蓄から投資への流れにのって、個人投資家を中心とする投資マネーが流れ込んだ」などと“さらっと”表現しています。しかしこれこそ、銀行窓販業務に携わっている方々(特に販売員)の「血と汗と涙の結晶」にほかならないのではないでしょうか。

私は2001 年から04 年まで、ある地方銀行の本部で資産運用業務の研修や推進などに携わっていました。そのとき、必ずや窓販の時代が来るに違いないと想像してはいましたが、これほどの勢いで全国に広がるとは考えてもみませんでした。私が当時熱望していたテラーを中心とするリテール営業の時代が、一挙に本格化しはじめたのです。

”内容で差別化できない投資型商品”

投資信託や個人年金保険といった商品は、それを販売する銀行の財務内容などによって価値が左右されるものではありません。たとえば皆さんが、ある投資信託A ファンドを買うとします。その時、格付けがトリプルAのスーパーバンクで買っても、銀行代理店となった個人から買っても、Aファンドの信用性に違いはないということです。

またこれらの商品は、一時的な先行メリットはあってもすぐさま他社が同様な商品で追随してくるため、類似商品も多く、内容で差別化することの難しい商品です。「これは他社では扱っていない商品ですから、ぜひわが社でお買い求めください」と言えるのもせいぜい3カ月程度で、すぐにそれよりも進化した商品が出てくると言えばわかりやすいでしょう。

つまり顧客側から見れば、資産運用商品はどこの金融機関でも同じようなものが買えるということです。さらに困ったことに、インターネットや携帯電話でも簡単に購入することができ、その購入手数料が無料だったりすることさえあります。現に、日本で最も資産残高の多い「グローバルソブリン(毎月決算)」は160 以上の金融機関で売られていますし、ある証券会社ではインターネットだけでなく店頭でも手数料なしで購入できます(こんなことは、お客様に知られたくないですよね。もちろん手数料が安ければ売りやすいでしょうが、むやみに手数料を下げることは、懸命に頑張るリテール営業の存在価値を否定することであり、そんなダンピング合戦はやるべきではありません)。

”リテール営業は高度なスキルが必要な仕事”

私が言いたいことは、「それだけ差別化できないものを販売している人は、えらいっ!」ということです。先日、営業スキルを特集したある雑誌で、日本電産の永守会長が「悪条件の中でモノを売るのが営業という仕事なのだ。君は死んだノラ猫を売れるか?」とおっしゃっていました。死んだノラ猫とまではいかないにしても、「元本保証の預金」しか取り扱っていなかった銀行で「元本保証のない差別化できない商品」を販売するのは、きわめて「難しい仕事」といっていいでしょう。

しかし、残念なことに今までの銀行では、法人営業に比べるとリテール営業に期待されるスキルは低かったですし、いまだそのように誤解をしている人たちも少なくないのが実情です。また人事考課などの際にも、リテール営業は低く評価されがちでした。でも、これからは違います。リテール営業とは、銀行業務の中でも最もカウンセリングやコンサルティングの能力が求められる業務であり、そこで実力を発揮している営業員は銀行内で注目の的となるのはもちろん、どの企業からも引っ張りだこになる時代が、間違いなくすぐそこまで来ています。

”団塊の世代がリテール営業を変える”

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン代表(2005年当時)の山本真司氏によると、アメリカではベビーブーマー(日本の団塊の世代に当たる人口の塊)が引退しはじめた90 年代後半から、金融商品の種類が増えて投資環境が複雑化する中でカウンセリングに対するニーズが高まり、資産運用業務における「コンサルティング・スキル」に優れた銀行が高い支持を集めるようになりました。

やがて団塊の世代のリタイアメントが始まる日本でも、同じような現象が起きても不思議ではありません。80 兆円もの退職金を手にする団塊の世代の人たちは、いま銀行窓販に大きな影響を与えている60 歳以上のお客様に比べるとパソコンやインターネットの扱いにも慣れています。当然、リサーチした情報などをもとに投資に関しても目が肥えてくると予想され、金融機関のサービスや、そこにいる販売員の様々なスキルに対する期待値はいっそう高くなっていくでしょう。

”これからのリテール営業に必要なこと”

ところで皆さんは今、どのような方法でセールスを行っていますか。私自身の自省の念も込めて、ぜひ認識していただきたいことがあります。それは、「100 万円で毎月○○円の分配金が期待できます」といったプッシュ型のセールスだけでは、必ず壁にぶつかるということです。

私はかつての研修や支店勉強会などで、この「100 万円で毎月○○円の分配金……」というフレーズを「どう効果的にお話しするか」といった、「すぐに売れる」「簡単に売れる」手法にとらわれすぎて、より高い顧客満足を提供できるようなトレーニングはなかなか実現できませんでした。いくぶん言い訳になりますが、投資商品に関する知識も販売経験もほとんどないテラーが一定の実績を上げ、販売する勇気と喜びを体得するようになるには、画一的なプッシュセールスのトレーニング以外に方法はなかったのです。

しかし、これからは違います。今後、店頭における投資型商品の販売が順調に推移してくれば、販売員に対する期待値もますます上がっていきます。簡単に言えば「販売目標が減ることはないし、目標達成もどんどん難しくなっていく」ということです。そのような時に画一的なプッシュセールスしか手段がなければ、販売員である皆さんは精神的に疲弊し、モチベーションも下がっていくでしょう。

大勢の団塊の世代のお客様が、退職金の運用相談に店頭を訪れる日もすぐそこに迫っています。

そろそろ「100 万円で毎月○○円の分配金……」から一歩踏み出して、「顧客満足度をより高める提案」をするにはどのような方法があるのかを、真剣に考える時が来たのではないでしょうか。

これから10 回にわたり、地方銀行での経験や退職後の窓販マーケティング研究会の成果などを踏まえ、「店頭での販売を伸ばすには何が必要か」を中心にお話させていただきます。かつて私が在籍していた銀行では、投資型金融商品の店頭販売比率は金額で40%超、件数で60%超と公表されていましたが、今も依然としてテラーの頑張りは日本でもトップクラスのようです。テラーを中心とする販売体制を築いてきた過去の作戦は、きっと皆さまのお役にも立てるはずです。どうぞ、よろしくお付き合いください。

BACK NUMBER