Vol. 01

「投信積立」が普及しない4つの理由

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ファンド情報
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2016.11.14

9月に金融庁が公表した「金融レポート」では、「国民の安定的な資産形成の促進」について最も紙幅を割き、長期・積立・分散投資を通じた資産形成について国民の理解を深めたいという意図がにじみ出ていた。しかし、「投信積立」の普及が思惑 通りに進んでいるとはいい難い。地方銀行に勤務し、投資信託の窓口販売販立ち上げに携わった者の1人として、その理由は4つあると考える。

まず、対面販売おけるアプローチ方法だ。金融レポートで紹介された調査では、投資未経験者のうち、約8割が「有価証券への投資は資産形成のために必要ない」と回答。その理由として「そもそも投資に興味がない」を挙げる人が約6割もいた。非常に厳しい事実だ。当然、それらの層に対して「NISAなら利益に税金がかかりません」「インターネットならノーロードです」という程度のアプローチが有効であるとは思えない。興味がない層に「税金や手数料がかからない」ことは魅力となり得ないからだ。

次に、アプローチする対象の誤解だ。投信積立は若い人が少額でするものという先入観がある。しかし、直近5年間、日経225に連動する投信を毎月購入した場合のパフォーマンスはプラス27%。5年間でこれだけの運用実績が得られるなら、現役世代だけではなく60歳でも70歳でも十分利用価値がある投資手法といえるだろう。投信積立の原資はフロー所得である必要はなく、ストックから捻出したものでも構わない。つまり、アプローチする対象は「毎月数万円を投資できる全ての層」となり、金融機関が接触できる対象者は大幅に増えるはずだ。

3つとしては、投信積立は毎月分配型投信の提案のように、誰もが簡単に声掛けできる「セールス手法」が確立されていないことだ。投信積立の案内にはお決まりの「ドルコスト平均法」の説明がある。しかし、投資に興味がない人に、こうした案内とキャンペーンだけで積み立ての魅力を伝えることは難しい。販売員にノルマがある場合は、「お願いベース」の営業スタイルになってしまう。お願い営業で販売する投信は顧客からのクレームを恐れ、値動きが小さく手数料も低い商品になりやすい。結果、顧客が投信積立の本来の魅力を享受しにくくなり、金融機関も手数料収益が減るという負の連鎖が起こる。

最後は評価の問題だ。この問題は将来得る収益を「みなし収益」として、営業成果に前倒しして組み入れることができれば、解決できるはずだ。投信積立を普及させるために本当に必要なことは、インターネット取引での推進ではなく、まずは対面の販売現場で「イチローを超える打率」(5打数2安打程度か)で約定できる「セールス手法」を確立させることだ。一般的に、「対面で売れない」ものが「ネットなら売れる」ということはない。そして、セールスの冒頭で「制度」や「手数料」の説明ではなく、「増やしたい」「増やせるかもしれない」という欲求に訴えることが必要だ。

金融機関はその対価として堂々と手数料を得ればよい。魅力を理解した顧客が成功体験を積めば、自ずと継続率も高くなり、投信積立から得る金融機関の収益は数年後の大きな財産となる。ただし、投信積立は完璧な投資方法ではない。手数料を受け取っている以上、顧客に利益が出ている時には一部を解約し、利益を確定する提案もすべきだろう。