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2016年11月14日2017年10月9日

「投信積立」が普及しない4つの理由

 9月に金融庁が公表した「金融レポート」では、「国民の安定的な資産形成の促進」について最も紙幅を割き、長期・積立・分散投資を通じた資産形成について国民の理解を深めたいという意図がにじみ出ていた。しかし、「投信積立」の普及が思惑 通りに進んでいるとはいい難い。地方銀行に勤務し、投資信託の窓口販売販立ち上げに携わった者の1人として、その理由は4つあると考える。

 まず、対面販売おけるアプローチ方法だ。金融レポートで紹介された調査では、投資未経験者のうち、約8割が「有価証券への投資は資産形成のために必要ない」と回答。その理由として「そもそも投資に興味がない」を挙げる人が約6割もいた。非常に厳しい事実だ。当然、それらの層に対して「NISAなら利益に税金がかかりません」「インターネットならノーロードです」という程度のアプローチが有効であるとは思えない。興味がない層に「税金や手数料がかからない」ことは魅力となり得ないからだ。

 次に、アプローチする対象の誤解だ。投信積立は若い人が少額でするものという先入観がある。しかし、直近5年間、日経225に連動する投信を毎月購入した場合のパフォーマンスはプラス27%。5年間でこれだけの運用実績が得られるなら、現役世代だけではなく60歳でも70歳でも十分利用価値がある投資手法といえるだろう。投信積立の原資はフロー所得である必要はなく、ストックから捻出したものでも構わない。つまり、アプローチする対象は「毎月数万円を投資できる全ての層」となり、金融機関が接触できる対象者は大幅に増えるはずだ。

 3つとしては、投信積立は毎月分配型投信の提案のように、誰もが簡単に声掛けできる「セールス手法」が確立されていないことだ。投信積立の案内にはお決まりの「ドルコスト平均法」の説明がある。しかし、投資に興味がない人に、こうした案内とキャンペーンだけで積み立ての魅力を伝えることは難しい。販売員にノルマがある場合は、「お願いベース」の営業スタイルになってしまう。お願い営業で販売する投信は顧客からのクレームを恐れ、値動きが小さく手数料も低い商品になりやすい。結果、顧客が投信積立の本来の魅力を享受しにくくなり、金融機関も手数料収益が減るという負の連鎖が起こる。

   最後は評価の問題だ。この問題は将来得る収益を「みなし収益」として、営業成果に前倒しして組み入れることができれば、解決できるはずだ。投信積立を普及させるために本当に必要なことは、インターネット取引での推進ではなく、まずは対面の販売現場で「イチローを超える打率」(5打数2安打程度か)で約定できる「セールス手法」を確立させることだ。一般的に、「対面で売れない」ものが「ネットなら売れる」ということはない。そして、セールスの冒頭で「制度」や「手数料」の説明ではなく、「増やしたい」「増やせるかもしれない」という欲求に訴えることが必要だ。

 金融機関はその対価として堂々と手数料を得ればよい。魅力を理解した顧客が成功体験を積めば、自ずと継続率も高くなり、投信積立から得る金融機関の収益は数年後の大きな財産となる。ただし、投信積立は完璧な投資方法ではない。手数料を受け取っている以上、顧客に利益が出ている時には一部を解約し、利益を確定する提案もすべきだろう。

つみたてNISAは「継続率」で勝負を

 つみたてNISAの口座開設の申込み受付が、10月2日から始まった。これは少額からの「長期・積立・分散」投資を通じて、資産形成を国民に広く普及させるための金融庁〝肝煎り〟の制度だ。多くの金融機関は、2018年1月の制度開始に向けて業績評価指標(KPI)として、金融機関全体と各支店のつみたてNISAの「獲得件数目標」を決めるはずだ。しかし、物事は始めるよりも続けることの方が難しいものだ。自分の意志で投資を始める利用者が多いインターネット専業の証券会社でも、積み立て投資を数カ月でやめてしまう顧客が多いという。実際、一度でも投資をすれば「稼働」としてカウントする現行NISAの稼働率は、いまだに60%程度にとどまっている。

 では、つみたてNISAの継続率を高めるにはどうすればよいか。第1に、KPIに「継続率」を加えることを提案したい。前提となる継続率の定義は、業界全体で決めてはどうか。ぜひ、1年、2年、3年と期間別の継続率をKPIとして、制度がスタートする前に決めてほしい。次に、積み立て投資を始める前の提案内容が重要だ。一般的に積み立ての有効性を伝えるには、「時間分散投資」「ドルコスト平均法」「長期投資」などを説明するケースが多い。それに付け加えてほしいのが、「含み損を抱えた場合」と「含み益を抱えた場合」の対処法だ。

 途中で投資を止めてしまう理由には、「せっかく始めた積み立てで損をしたから」というものが多い。含み損を抱えた場合でも、購入した投資信託の基準価額が今後、上がると考えるのであれば「多くの口数を買える喜ばしいタイミング」であり、今後上がらないと考えるのであれば「投資先を再検討するタイミング」であることを、積み立てを始める前に伝えるべきだ。

 一方、含み益を抱えた場合では、積み立て投資を継続しつつ、利益の一部を確定する選択肢があることを伝えてほしい。積み立ては完璧な投資方法ではなく、仮に20年間継続しても含み損を抱えるケースもあるからだ。この2点をあらかじめ伝えておけば、〝お付き合い〟で始めた顧客が積み立て投資で含み損を抱えたとしても納得感があり、継続率は上がるはずだ。

 最後は、提案の「見せ方」の工夫だ。各金融機関は自ら掲げた「顧客本位の業務運営に関する原則」への「取組方針」に基づき、積み立て投資の有効性を顧客に理解してもらったうえで、現行NISAやiDeCo、特定口座といった複数の投資制度や商品を比較しながら説明することが求められる。

 しかし、資産形成や有価証券投資の必要性を強く感じない未経験者に対し、制度や商品を説明し納得してもらうことは簡単ではない。ネットなどを活用すれば片付く問題でもない。提案スキルの低い販売員が提案に時間をかけたからといって顧客の納得感が高まるとは限らず、コストがかさむだけの場合もある。収益性の低いつみたてNISAを拡大するには、効率的な提案を実現する説明ツールや説明手法を考案する必要もあるだろう。基本的に少額の投資家を相手にする積み立て投資で、金融機関が預かり資産を積み上げるには、10年、20年という期間を要するだろう。こうした息の長いビジネスに乗り出す前に、積み立て投資の継続率を定義し、「顧客に伝えなければいけないこと」「継続率を高める効率的な提案手法」を構築してほしい。