「近代セールス」に代表河合行宏の連載が掲載されました。
(06.03~06.09)

第01回第02回第03回第04回第05回第06回第07回第08回第09回第10回

第01回 リテール営業の時代がやって来た!

窓販担当者の努力の結晶

2005 年末の銀行窓販による公募株式投信の残高は、19 兆9086 億円。この1年間で7 兆2756億円(前年比+58%)も増え、バブル期並みの公募株式投信の増勢に大きく貢献しました。個人年金保険の数字も合わせて考えると、まさに「銀行窓販絶好調!」と言ってもいいでしょう。

また、定年を間近に控えた団塊の世代の退職金が80 兆円とも言われていることを考えれば、今後もさらに「窓販絶好調時代」が続くと予想されます。新聞などではこうした状況を、「貯蓄から投資への流れにのって、個人投資家を中心とする投資マネーが流れ込んだ」などと“さらっと”表現しています。しかしこれこそ、銀行窓販業務に携わっている方々(特に販売員)の「血と汗と涙の結晶」にほかならないのではないでしょうか。

私は2001 年から04 年まで、ある地方銀行の本部で資産運用業務の研修や推進などに携わっていました。そのとき、必ずや窓販の時代が来るに違いないと想像してはいましたが、これほどの勢いで全国に広がるとは考えてもみませんでした。私が当時熱望していたテラーを中心とするリテール営業の時代が、一挙に本格化しはじめたのです。

内容で差別化できない投資型商品

投資信託や個人年金保険といった商品は、それを販売する銀行の財務内容などによって価値が左右されるものではありません。たとえば皆さんが、ある投資信託A ファンドを買うとします。その時、格付けがトリプルAのスーパーバンクで買っても、銀行代理店となった個人から買っても、Aファンドの信用性に違いはないということです。

またこれらの商品は、一時的な先行メリットはあってもすぐさま他社が同様な商品で追随してくるため、類似商品も多く、内容で差別化することの難しい商品です。「これは他社では扱っていない商品ですから、ぜひわが社でお買い求めください」と言えるのもせいぜい3カ月程度で、すぐにそれよりも進化した商品が出てくると言えばわかりやすいでしょう。

つまり顧客側から見れば、資産運用商品はどこの金融機関でも同じようなものが買えるということです。さらに困ったことに、インターネットや携帯電話でも簡単に購入することができ、その購入手数料が無料だったりすることさえあります。現に、日本で最も資産残高の多い「グローバルソブリン(毎月決算)」は160 以上の金融機関で売られていますし、ある証券会社ではインターネットだけでなく店頭でも手数料なしで購入できます(こんなことは、お客様に知られたくないですよね。もちろん手数料が安ければ売りやすいでしょうが、むやみに手数料を下げることは、懸命に頑張るリテール営業の存在価値を否定することであり、そんなダンピング合戦はやるべきではありません)。

リテール営業は高度なスキルが必要な仕事

私が言いたいことは、「それだけ差別化できないものを販売している人は、えらいっ!」ということです。先日、営業スキルを特集したある雑誌で、日本電産の永守会長が「悪条件の中でモノを売るのが営業という仕事なのだ。君は死んだノラ猫を売れるか?」とおっしゃっていました。死んだノラ猫とまではいかないにしても、「元本保証の預金」しか取り扱っていなかった銀行で「元本保証のない差別化できない商品」を販売するのは、きわめて「難しい仕事」といっていいでしょう。

しかし、残念なことに今までの銀行では、法人営業に比べるとリテール営業に期待されるスキルは低かったですし、いまだそのように誤解をしている人たちも少なくないのが実情です。また人事考課などの際にも、リテール営業は低く評価されがちでした。でも、これからは違います。リテール営業とは、銀行業務の中でも最もカウンセリングやコンサルティングの能力が求められる業務であり、そこで実力を発揮している営業員は銀行内で注目の的となるのはもちろん、どの企業からも引っ張りだこになる時代が、間違いなくすぐそこまで来ています。

団塊の世代がリテール営業を変える

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン代表(2005年当時)の山本真司氏によると、アメリカではベビーブーマー(日本の団塊の世代に当たる人口の塊)が引退しはじめた90 年代後半から、金融商品の種類が増えて投資環境が複雑化する中でカウンセリングに対するニーズが高まり、資産運用業務における「コンサルティング・スキル」に優れた銀行が高い支持を集めるようになりました。

やがて団塊の世代のリタイアメントが始まる日本でも、同じような現象が起きても不思議ではありません。80 兆円もの退職金を手にする団塊の世代の人たちは、いま銀行窓販に大きな影響を与えている60 歳以上のお客様に比べるとパソコンやインターネットの扱いにも慣れています。当然、リサーチした情報などをもとに投資に関しても目が肥えてくると予想され、金融機関のサービスや、そこにいる販売員の様々なスキルに対する期待値はいっそう高くなっていくでしょう。

これからのリテール営業に必要なこと

ところで皆さんは今、どのような方法でセールスを行っていますか。私自身の自省の念も込めて、ぜひ認識していただきたいことがあります。それは、「100 万円で毎月○○円の分配金が期待できます」といったプッシュ型のセールスだけでは、必ず壁にぶつかるということです。

私はかつての研修や支店勉強会などで、この「100 万円で毎月○○円の分配金……」というフレーズを「どう効果的にお話しするか」といった、「すぐに売れる」「簡単に売れる」手法にとらわれすぎて、より高い顧客満足を提供できるようなトレーニングはなかなか実現できませんでした。いくぶん言い訳になりますが、投資商品に関する知識も販売経験もほとんどないテラーが一定の実績を上げ、販売する勇気と喜びを体得するようになるには、画一的なプッシュセールスのトレーニング以外に方法はなかったのです。

しかし、これからは違います。今後、店頭における投資型商品の販売が順調に推移してくれば、販売員に対する期待値もますます上がっていきます。簡単に言えば「販売目標が減ることはないし、目標達成もどんどん難しくなっていく」ということです。そのような時に画一的なプッシュセールスしか手段がなければ、販売員である皆さんは精神的に疲弊し、モチベーションも下がっていくでしょう。

大勢の団塊の世代のお客様が、退職金の運用相談に店頭を訪れる日もすぐそこに迫っています。

そろそろ「100 万円で毎月○○円の分配金……」から一歩踏み出して、「顧客満足度をより高める提案」をするにはどのような方法があるのかを、真剣に考える時が来たのではないでしょうか。

これから10 回にわたり、地方銀行での経験や退職後の窓販マーケティング研究会の成果などを踏まえ、「店頭での販売を伸ばすには何が必要か」を中心にお話させていただきます。かつて私が在籍していた銀行では、投資型金融商品の店頭販売比率は金額で40%超、件数で60%超と公表されていましたが、今も依然としてテラーの頑張りは日本でもトップクラスのようです。テラーを中心とする販売体制を築いてきた過去の作戦は、きっと皆さまのお役にも立てるはずです。どうぞ、よろしくお付き合いください。

第02回 店頭販売の優位性

店頭チャネルを重要視する銀行が増えてきた

05 年2月に窓販マーケティング研究会が地銀および第二地銀を対象に行ったアンケート調査によると、「現在、投信販売に非常に影響を与えている販売チャネル」は「渉外」が73.24%、「店頭」が21.13%であり、また、店頭販売は投信の販売実績に「影響ない」もしくは「どちらともいえない」との答えが合わせて26.75%を占めています(図1参照)。このような調査結果からも、現在の地銀・第二地銀の投資型金融商品の主力販売チャネルは「渉外」であることが確認できるでしょう。

しかし一方で、いち早く投信販売を始めた投信残高の多い銀行ほど「非常に影響を与えている」「やや影響を与えている」といった回答の比率が高くなっていることも事実で、また近年の新卒採用でも明らかに店頭販売を意識した女性の採用が増えているなど、「店頭」は重要な販売チャネルとして認識されつつあるようです。最近の業界紙などで投資型金融商品の戦略を語るとき、しばしば「店頭販売比率」という言葉が使われるようになってきたことも、その傾向を裏づけています。

かつて私が在籍していた銀行でも窓販開始当初(01 年頃まで)は、投資型金融商品を販売するのは「渉外」の仕事だと考えられていました。そして「店頭」には、「待ち時間の短縮」や「ATMなどへの誘導」といった「従来業務の効率化」が重要な任務として期待されていました。もちろん、投資型金融商品の店頭販売比率などという言葉も存在していませんでした。

しかし今、収益力を高めるための重要な戦略として「店頭販売」がクローズアップされ、多くの銀行がその戦略に注目しているようです。ではなぜ、これほどまでに店頭チャネルが重要視されるようになったのでしょうか。まずは、渉外と比較した店頭販売の優位点について考えてみましょう。

渉外に比べ店頭販売の優位な点とは?
各地の「店舗網と、そこに常駐する女性行員を活用して収益の拡大を図るビジネスモデル」は、地域に根ざした金融機関が投資型金融商品を販売する上できわめて有効な戦略だといえます。私が在籍していた銀行では、今でも100 店以上の店舗に常駐する300 人以上のテラーが、毎月80 億円以上の投資型金融商品を販売し、ナンバーワン・テラーは年間に12 億円もの販売実績を上げているようです。では店頭販売は、渉外に比べどんな点が優れているのでしょうか。

今いる人材を活かすことができる

投資型金融商品の販売においては、実績のある有名テラーや評判の高い行員だけでなく、それまで運に恵まれなかった人達にも急にスポットライトが当たりはじめました。つまりこの業務は、研修やセールスの仕組みさえ用意できれば、今いる人材を活かして実績を上げることも可能だということです。そしてそれは、埋もれた人材の発掘であり、再生でもあります。経験者の中途採用も短期的には有効ですが、現有のマンパワーで活用できるのが店頭販売なのです。

渉外のいない出張所も戦力になる

法人中心の店舗は別として、個人預金を扱う店舗であれば、渉外がいなくても販売実績を上げることができます。つまり出張所なども、戦力としては重要な存在になりうるわけです。最近、店頭販売を前提に新しい店舗戦略を打ち出す金融機関が増えています。今後はこの業務とローンだけの少人数のリテール店舗が、どんどん増えていくことでしょう(スーパーなどの営業時間に合わせて土日出勤が増えるかもしれませんが……)。

クロスセル、アップセルの機会が広がる

店頭販売では1 件当たりの販売額が少ないため、多くの場合、顧客に十分な投資余力が残ります。

そのため新商品の発売時やマーケット環境の動いた時などが、常にセールスチャンスになりえるのです。逆に渉外による訪問販売は1件当たりの販売額が大きく、顧客の投資余力を奪う場合も少なくありません。いきおい顧客の負うリスクも大きくなり、販売方法やフォローの仕方によっては顧客を失うことさえあります。

資産残高が安定する

渉外に比べ販売件数や顧客数が多いことは、積み重ねられた資産残高が一度に解約される確率が低いことになります。それは、窓販開始当初は意識されていなかった「投信の信託報酬」が収益として「価値ある数字」となった時、しみじみと実感されることなのでしょう。ちなみに私の在籍していた銀行では、投信の信託報酬がすでに数十億円に達しているようです。あの当時からの積み重ねが、着実に大きな実績となっています。

問題セールスが減り、事故やクレームも少ない

常に情報端末が利用できるなど、渉外に比べると「身近にある情報」の量は格段に違います。また、本部や上席にもすぐに相談できる環境にあるため、誤解を与えるセールスを行う確率が低く、コンプライアンス上も問題のない販売が期待できます。販売員のスキルにもよりますが、通常は事故やクレームも少なく、書類上の不備などをその場で解消できることも、店頭販売の優れた点でしょう。

販売額のぶれが小さい

たとえ1人当たりの平均販売額が1百万円であっても構わないのです。店頭販売が浸透し、全支店のすべてのテラーがセールスすることで、日々のマーケット環境にもほとんど影響を受けない安定した販売実績が期待できるようになります。また融資業務などを兼業している渉外に比べ、業務に集中できる環境にあることも、季節要因などに左右さない安定した販売額が期待できる要因の一つだといえます。

セールス機会が圧倒的に多い

これがおそらく、店頭販売の最も優れている点でしょう。100 店舗の平均3 名のテラーが1 日10人の顧客に対し新商品を1 ヵ月セールスすると、100 店×3 名×10 人×20 日=6 万人、20 人にセールスすると12 万人の顧客に商品を紹介できます。渉外によるセールスに比べて商品の提案機会が圧倒的に多く、投資型金融商品を買っていただく可能性も必然的に高くなります。どんな広告よりも、店頭での声掛けに勝るマーケティングはありません。

以上が、私が経験上感じてきた「店頭販売の優位性」です。支店の担当者と一緒に住宅街やマンションなどにお住まいの退職者の方をお尋ねするときなど、訪問による提案を拒まれるケースが少なくありませんでした。逆に、そのような層に商品を提案するときは、ご夫婦で来店された場合の方が約定する確立は高かったように記憶しています。皆さんはどうですか?

ただし、店頭販売にも問題点はたくさんあります。次回は、「店頭販売の課題」についてお話しましょう。

第03回 店頭販売の課題

好調な「店頭販売」にも課題は山積

2005 年が「銀行窓販絶好調!」となった原因は、銀行窓販業務に携わっている方々(特に販売員)の「血と汗と涙の結晶」だと、最初の回にお話しました。しかし同時に05 年は、マーケット環境にずいぶん助けられたということも忘れてはいけません。預金は相変わらずの超低金利が続くなか、世界的な景気の好循環により、「どの分野に投資しても儲かった」とさえ言われるほど、投資家にとっては「恵まれた1 年」だったといえるでしょう。今でもテレビ、雑誌、書籍などには、「投資をあおる」ようなフレーズがあふれています。銀行の窓口でも、お客様から「投資をしてみたい」と相談をもちかけられることがあったのではないでしょうか。

しかし銀行窓販の短い歴史の中でも、多くのお客様が「投資など絶対にしたくない」と思われた苦難の時期があったことを、皆さん覚えていますか。最近になって販売業務に携わるようになった方は、ご存知ないかもしれません。それはITバブルの崩壊が始まった2000 年と、エンロンショックに見舞われた01 年のことです。なかでもエンロンショックは、当時銀行の本部にいた私にとって忘れることのできない出来事でした。

アメリカの大手エネルギー会社エンロンの経営破綻により、公社債投信が元本割れとなったのです。その時に、泣きながらお客様に応対をした女性販売員がいました。彼女は、それまで「お客様に少しでも有利な商品を」という純粋な考えのもと、定期預金より運用実績の良いその公社債投信を積極的に販売し、全店でトップの販売件数を達成していました。

もちろん彼女は「元本割れの恐れがある商品です」という説明はしていたため、深刻なトラブルにはなりませんでした。しかし、お客様のことを思うと、しばらくはエンロンショックから精神的に立ち直ることができませんでした。これからのお話の中心になるテラーの方々が投信販売にネガティブになると困りますが、このような「想定できないケースが起きるかもしれない」ということは、ぜひとも認識しておいていただきたいと思います。

個人投資家から見放されないために

店頭販売の優位性については、前回のお話でご理解いただけたと思います。近年は定期分配型投信の活況などで、多くの金融機関の店頭でも株式投信や変額年金保険の販売実績が伸びていることでしょう。しかし店頭販売には、今なお多くの課題が残されています。特に個人投資家の立場からすると、問題は非常に大きいように思われます。販売員自身にかかわる問題も、銀行の組織としての問題もありますが、せんじ詰めれば販売する側の「コンサルティングスキルをどう高めるか」という点に行き着くでしょう。具体的には、以下のような諸点です。

販売環境が整備できていない

今の金融機関の店頭は、どう見てもコンサルティング業務にふさわしい環境とはいえません。かつて私が在籍していた銀行でも、01 年以前は「待ち時間短縮」のためにローカウンターを減らし、クイック返却のためのハイカウンターを増設していました。

その後、少しずつそのような環境は改善に向かっており、最近は相談専門のデスクやブースを設置している銀行も増えているようですが、店舗レイアウトの変更には相応の資金が必要になり、一朝一夕で何とかなるものではありません。まず肝心なことは、店頭販売を販売戦略の中心に位置づけるということでしょう。

中途退職者が多い

女性販売員はどうしても結婚や出産による退職が多く、スキルをたくわえた大切な人材が簡単に職場を去ってしまいます。やる気のある有能なテラーを失うのは大きな損失で、非常に残念なことです。最近は多様化した雇用ニーズに応えるため、そのような女性やリタイアした証券出身者などが勤務しやすいよう、出勤するする曜日や時間帯をフレキシブルにし、優秀な人材の確保に努めている金融機関もあるようです。

マネジメントスキルが足りない

少数のスーパー・セールスレディーに頼ることなく、テラー全員が恒常的に販売実績を上げることが理想であるとすれば、その販売員のモチベーションを管理するマネジメントスキルはきわめて重要です。私の経験でも「支店の雰囲気が悪い」「渉外とテラーのコミュニケーションがよくない」、あるいは「テラーリーダーが投資型商品の販売に消極的である」といった問題を抱える支店の店頭販売比率は低く、販売の不振はマネジメントに起因することが少なくありませんでした。

ところが現状では、そうしたマネジメントスキルを向上させる研修などが、体系化できていない金融機関が多いのではないでしょうか。いま販売の最前線にいるテラーが管理職になる時にそなえ、マネジャー研修のシステム作りを急ぐ必要があると、私は思います。

知識・認識不足の役職者が多い

従来の銀行にはなかった業務のため、内部役席、内部管理責任者、営業責任者など役職者の中に、いまだに投資型商品の販売に否定的な人達が多いのも事実です。それもあってか、問題やトラブル防止への対処力が弱い上席も少なくありません。しかし、今後予定されている「投資サービス法」の施行などを考えても、早急な対応が必要です。

今までは主に販売員向けの実践的な研修などに力が注がれてきましたが、上記のモチベーション管理も含め、管理職の様々なスキルアップが必要になっています。

アフターフォローの体制がない

一般的には、証券会社と違って銀行には明確な担当者制がないため、販売後のきめ細かいフォローまでは、なかなか目が届きません。また「担当者をつけて欲しい」という顧客側のニーズがあっても、店頭販売は数多くのお客様を相手にしなければならないため、「言うは易く行うは難し」といったところが実情でしょう。

こうした問題を解決するには、CRM(Customer Relationship Management)などを強化して「どの支店の誰が接してもお客様に失礼のない対応」をできるようにするか、あるいは「限りなく担当者制に近い制度」を導入するかなど、差し当たって「戦略の方向性を決めること」が必要になります。

しかし、そこまで難しく考えなくても、たとえば「運用報告会等のセミナーを効果的に活用する」などは、どの銀行でもすぐにできるアフターフォローです。それ以上のフォローが必要なお客様には、違うチャネルで対応することが現実的かもしれません。

販売員のコンサルティングスキル不足

冒頭でも述べたとおり、これが最も大きな問題でしょう。成績優秀者などが海外研修に行くと、研修先の外国人は「日本の販売員が若い」ことに驚いているようです。つまりそれは、日本の投資家が「コンサルティングスキルや専門知識に自信のない販売員から投資型金融商品を買う」ことを、外国人は疑問に思っているということにほかなりません。

とはいえ困ったことに、他の多くの課題以上に、その解決は容易ではありません。シミュレーションツールの補強ひとつとってもおいそれと実現できるものではありませんし、ましてや人材そのものの育成となると、費用以上に膨大な時間が必要になります。

しかしそれは、金融ビックバンの集大成として「銀行の文化」が変わっていく過程において、避けて通ることのできない課題といえるのではないでしょうか。

第04回 店頭販売比率を高めるために(1)

テラーに求められている4つの資質

いまテラーに求められているものは、①商品知識、②専門知識、③コミュニケーションスキル、そして④モチベーションの4つである――先日、ある地銀本部の方とお会いした際に、うかがった話です。

リテール分野に非常に力を入れているその地銀の方に、この4点について自己採点をしてもらうと、①◎、②○、③△、④△という結果でした。そして、「商品説明はスムーズにできる。専門知識も経済新聞を読むなどして、少しずつ身についてきた。ただし、税金などの知識はいまひとつ。一方で、コミュニケーションスキルはまだまだ弱い。特に、商品説明はスムーズでもお客様とのコミュニケーションがうまくいかず、販売不振になってしまうケースが多い。モチベーションは、もっと高めるために努力中」というのが、そのとき聞いた解説です。

しかしこの銀行のように、専門知識についてはテラーが始業前に経済新聞の読み合わせをするまでになり、コミュニケーションスキルやモチベーションについてもさまざまな取り組みをされている金融機関は、まだまだ少数ではないでしょうか。さらにその銀行では、リテールで活躍している男性の渉外担当を法人業務にシフトし、女性販売員をリテール営業の中心にすえる方針のようです。

今後はますます、店頭における販売に勢いがついていくことでしょう。

かつて私が在籍していた地方銀行は、今でこそ店頭販売では地銀でトップクラスの実績を誇っていますが、5年前を振り返ってみると①△、②×、③△、④△といった状況でした。投資型金融商品の販売の中心は渉外担当であって、店頭販売員には得意とする商品もなく(本来は、すべて得意であるべきですが)、経済新聞にはほとんど興味がわかず、高いのはモチベーションというより、むしろプライドだったような気がします。

では、私のいた銀行は、どのようにして店頭販売比率を飛躍的に上昇させることができたのでしょうか。ポイントは、「商品」「環境」「仕組み」「ツール」「モチベーション」「研修」の6つに分けることができると思います。

自信をもって紹介できる商品を販売員に提供する

商品

ご多分にもれず私が在籍していた銀行でも、店頭販売が増えた一番の原因は定期分配型投信の導入にありました。毎月分配型ではなく3カ月ごとに分配するファンドでしたが、「100万円で3カ月ごとに○○円の分配金が期待できます」という定期分配型商品の魅力が、多くの顧客の目を投資信託に向けたことは確かです。自信をもって紹介できる商品を販売員に提供することは、店頭販売比率を高める上で決定的に重要な戦略といえるでしょう。

しかし一方で、金利が上昇した際にどこまであのフレーズが通用するかわかりませんし、商品の売れ筋も時代とともに変化します。商品選定担当者の目利きは、非常に難しくますます重要になっていくでしょう。とはいえ説明しやすい商品を入れるだけで、販売額が飛躍的に増えるはずもありません。次の重要な戦略は、「店頭でセールスする回数を増やす」ことです。

テラーのセールス機会を増やすための工夫

環境

私のいた銀行では、内部事務担当も法人融資担当も、すべての行員が投信販売資格をもつようにしました。当初はそれで店頭販売が伸びると考えていたかどうかは疑問ですが、その後、必要に応じて販売窓口を増設できたのも、資格をもったテラーを多数確保できていたからです。これからのリテール業務の重要性を考えれば、銀行員は自ら進んで資格を取るべきでしょう。

そして次に、セールスできる場所を増やしました。窓販開始当時は、店頭で投資型金融商品を販売できる場所は専用端末のある窓口に限られていました。そこで、既存のローカウンターを預金窓口と誤認されないように整備し、全店のローカウンターで投資型金融商品を販売できるようにしたのです。

窓口増設といっても、当時は窓販が利益の上がる業務とは認識されていなかったので、改装費用はどこからも出てきません。そこで、ローカウンターの案内表示板にある預け入れ、払い出しなどの預金をイメージさせる文字を表示板と同色のシール(1 枚500 円)で隠すという、苦肉の策で対処しました。業者に頼まず行員自身の手で行ったので、近くで見ると継ぎはぎがわかってしまいますが、たった15 万円で一夜にして販売窓口が300 カ所も増えました。しかしその効果は絶大で、1人のテラーが1 日20 人のお客様にセールスできるとすれば、1 日で6000 回もセールス機会が増えたことになるわけです。

仕組み

販売できる場所は飛躍的に拡大できましたが、そのカウンターには販売専用端末などありませんし、そのままではセールス機会は増えません。次に工夫することは「セールスの声をかけやすい仕組みづくり」でした。

慣れない商品をセールスすること、特に最初の一声をかけることは、テラーにとっては非常に苦痛です。また当時は、投資型商品に対してネガティブな意識をもつテラーも少なくありませんでした。そこで、キャンペーンなどを企画してセールスしやすい仕組みを用意し、セールスが苦痛でなくなるような条件を整えていきました。

今では一般的になりましたが、「その商品を購入すると定期預金の利息が1%になる」などというキャンペーンです。どんなに自信のないテラーでも、「キャンペーンをやっているのですが……」なら、気楽に声かけできるはずですからね。

容易に反復セールスができるツールを充実させる

ツール

同時に、店頭販売に適した販売ツール作りにも力を入れました。窓販開始直後は、運用会社から提供される販売用ツールは多種多様でした。コストのかかる紙芝居形式のものや、冊子タイプのものも多かったと思います。銀行本部も、立派なツールが販売に役立つという感覚だったのでしょう。

しかし実際には効果的に使われず、捨てられたものも少なくなかったはずです。そこで発想を切り替え、テラーが3分間で容易に反復セールスができ、顧客に誤解を与えず無差別にドンドン配付できるツールを運用会社の方と共同で作成しました。

それは、商品の主要なポイントをA4判1枚の表裏にまとめ、図などを示しながら説明できるものでした。このツールは、後に説明します研修や支店勉強会のロールプレイで徹底的に利用した結果、店頭の販売実績は着実に上がっていきました。

A4判1枚ものツールは、まず各支店に100~200 枚配付し、支店に在庫がなくなると100 枚単位で請求がきます。「請求の多い支店=店頭販売実績が高い支店」という傾向が現れたのは、本当に活用されていたからでしょう。やがて同種のツールは他の金融機関でも使われるようになり、運用会社の方からもコスト削減効果を喜んでいただきました。

店頭販売比率を上げるポイント「モチベーション」および「研修」については、次回以降お話させていただきます。

第05回 店頭販売比率を高めるために(2)

――鍵はテラーのモチベーション

実績ランキングの公表が行員のやる気を刺激

「テラーの方は、販売実績に応じて給与が上がるのですか」。多くの金融機関の方から、こんな質問を受けました。答えはもちろん「NO」です。また、最近はしばしば販売上位者向けの特別研修も行われていますが、多分それだけでは、テラーがこんなに動きだすことはなかったでしょう。ではなぜ、テラーのモチベーションが上がったのでしょうか。以下は、かつて私が在籍していた地方銀行での経験です。

2002年上期にリスク限定型投信の導入で爆発的に販売額が伸びたときには、渉外を中心に短期間で目標を達成する支店が目立っていました。ですから当時は、テラーの数字が銀行全体の販売額に影響を及ぼすという認識はありませんでした。

もちろん、店頭販売比率などという指標も存在していません。個人の実績を集計していなかったため、支店ごとの販売額はわかっても、誰が投資型金融商品を売っているかは明確にとらえられていなかったのです。

しかし02 年下期になると、研修や支店勉強会でロールプレイを体験したテラーがメキメキと力をつけていることが実感できました。そこで全店の販売員の実績を件数、金額ごとに集計し、個人渉外、法人渉外やテラーなど担当ごとのランキングを社内LANで公表することにしたのです。ここでのポイントは、①販売金額よりも販売件数を重視したこと、②なるべく多くの営業員の名前が掲載されるようにしたことです。

すると、予想どおりの現象が起きました。今まであまり注目されなかった郡部のベテランテラーや渉外担当、意欲的な若手テラーなどが、次々とランク入りするようになったのです。それまで運に恵まれなかった人達に、急にスポットライトが当たったわけです。これは、多くの行員のやる気を刺激しました。

現状では効果の薄い販売歩合給制度の導入

現在、投資型金融商品の販売において、販売実績に応じた歩合給を採用している金融機関も少なからずあるでしょう。しかし私は、他の環境をそのままに歩合給を導入することには賛成できません。理由は3つあります。

第1は、過程が評価されないからです。実績数字に表れない営業のプロセスを評価しないのは、管理職の怠慢ともいえます。

第2に、アフターフォローがおざなりになるから。手間のかかるクレーム処理などを引き受ければ、報酬を得る機会が減ります。そんな販売員の意識は「販売時だけ一生懸命」な姿勢となって、必ず顧客に伝わるからです。

そして第3の理由は、報酬だけがモチベーションを上げるものではないからです。当時、私と一緒に仕事をしたテラー達は、給料や地位だけのためにセールスをしてはいませんでした。彼らを頑張らせていたのは「新しい業務にチャレンジする向上心」や「会社の収益部門に初めて貢献しているという自負心」であり、「お客様に新しい提案をして理解してもらえる喜び」だったのです。

店頭販売比率が低いのはマネジメントに問題?

販売員実績のランキング公表は、それなりにインパクトがありましたが、一方で02 年下期には、投信販売に対する渉外担当の注力が、他の業務に支障をきたしているとの見方が出はじめました。

そこで、テラーの販売実績がいっそう注目されるデータを公表することにしました。それが「店頭販売比率」です。

店頭販売比率を公表した時点で、全店では件数の50%、販売額の30%が店頭で占められていましたが、支店ごとの数字が公表されると、次のような現象が起きました。まずは、店頭販売比率が高い支店の活動事例がブロック会議などで紹介されるようになり、それとともに、今までテラーによる販売など重視していなかった支店から、勉強会開催の依頼が急に増えてきたのです。

しかし「何とかしてテラーの実績を上げて欲しい」という支店長の依頼に応じて支店を訪問すると、「何しに来たの?」と敵意むき出しのテラーや、「関係なーい」と何を言われても反応なしのテラーなど、様々な難敵が待ち受けていました。そして店頭販売実績が上がっていない支店は共通して、「雰囲気が暗い」「渉外とテラーのコミュニケーションが悪い」「テラーリーダーが超ネガティブ」などの特徴をもっていたのです。つまり、販売の不振はマネジメントに起因することが多く、そのような支店では当然ながら、一度の勉強会だけでは実績は上がりませんでした。

勇気づけ、きっかけを作り成果はすぐに褒める

それでも勉強会を重ねて実績が伴ってくると、少しずつモチベーションも上がってきました。それは、「実績を上げろと言われるのは嫌」でも、「実績が上がるとうれしい」もので、「他人に成果を認められたい」という気持ちは、程度の差こそあれ誰もがもっているものだからです。

支店勉強会では、そのようなテラーの気持ちを販売意欲につなげていくために、①セールスする勇気をもってもらう、②成果に結びつくきっかけをつくる、そして③うまくいったらすぐに褒めるということを、いつも念頭に置くように心がけました。

①セールスする勇気をもってもらうには、「ロールプレイング」が最も効果的です。といっても、他のテラーの見本となるように演じてもらう必要はありません。もちろん、見せしめのようなロールプレイはもってのほか。やらされたテラーは、支店の役席にも本部担当者にも敵意さえ抱き、モチベーションはいっそう下がってしまいます。

ロールプレイングで大事なことは、練習を通じてセールスする自信をもってもらうことです。「この資料を使って、こう話せば、こんなに簡単にセールスできるんだ」「思いのほか簡単に話せた」「これなら私でもできる」という自信と、「明日、早速チャレンジしてみよう」という勇気がわいてくればしめたものです。

②成果に結びつくきっかけづくりには、「明日は必ず、お客様に買っていただけます。実績が上がったら私の携帯電話に連絡してください」というような約束も有効です。もちろん、こうした暗示が効力をもつためには「必ず次の日に実績が上がるようにする」という講師側の意気ごみが必要で、翌日が休みである金曜夕方の勉強会を避けるなどの配慮も大切です。それまでまったく実績のなかったテラーから「投信が売れました」と連絡があると、本当にうれしかったものです。

③勉強会のフォローとして成果を上げたテラーを褒め、「本部担当者が自分を気にかけてくれている」と感じてもらうことも、モチベーション向上には非常に効果的です。特に店頭販売実績が悪い支店の多くは、えてして店内のコミュニケーションが不足しているもの。「○○さん、頑張っていますね」と声をかけることが、次のセールスに向かう原動力となるのです。

研修や勉強会だけでその支店のマネジメントまで変えることはできませんが、1人でもテラーのモチベーションが上がれば、その活動には大きな意味があります。やがて、それが少しずつ周りの人達にも伝播し、「お客様に感謝されたい」「楽しく仕事をしたい」「意味を感じられる仕事をしたい」という気持ちを複数のテラーや上席者で共有できるようになれば、必ず店頭の販売比率も上昇するからです。このような勉強会を通して最もモチベーションが上がっていったのは、一生懸命頑張っている支店やテラーとともに仕事ができた私自身だったかもしれません。

第06回 店頭販売比率を高めるために(3)

――集合研修のコンセプトを明確に

「意識」と「研修方法」と「セールス手法」の改革へ

最近は、多くの金融機関で集合研修の方法が見直され、実戦的なロールプレイングなども導入されているようです。また運用会社や保険会社による特色ある集合研修も、盛んに行われています。

では現実に店頭販売実績を伸ばしていくには、どのような集合研修が効果的なのでしょうか。
かつて私が在籍していた金融機関で、店頭販売比率の向上に最も大きな影響を与えた集合研修がスタートしたのは、2001 年7月のことです。その時の研修のコンセプトは、下記の3つの「改革」から成り立っていました。

意識の改革

①この業務でこそ、女性は活躍できる――男性以上の実績を上げ、会社から必要な要員と思われる仕事はこの分野です。一緒に頑張りましょう。

②豊かな老後のためには「投資」が必要――将来の不安に備え、金融資産の管理・運用を真剣に考えなければならない時代が来た。一緒に学びましょう。

③お客様を不幸にする商品を売るのでない――購入するかしないかを決めるのはお客様です。「投信を薦めるのはお客様のため」という自信をもって、セールスしましょう。

研修方法の改革

①本部の自己満足的な研修からの脱却――楽しく、かつ厳しい「参加型研修プログラム」を作成し、通りいっぺんの「講義」は行わない。

②常に実戦的であること――基本は、ロールプレイとディスカッション。目標は「翌日には実際にセールスし、成約できる」こと。

③継続的な研修――1 度受講すれば資格を与えるような研修ではなく、テラーを続ける以上は永遠に受け続けなければならないような、継続的研修を目指す。

④外部講師の活用――内部スタッフは研修のプロデュースに徹し、特に知識の不足している分野の講習や研修資料の作成はプロに任せる。

セールス手法の改革

①新しいセールス技術の習得――旧来の優秀テラーの手法にとらわれることなく、積極的に新しいセールス技術を取り入れる。

②話を「聞く」ことの重要性を知る――しゃべりのうまい人が、良いセールスレディーではない。
話のスムーズさを競うロールプレイを否定し、お客様の話を聞くことの大切さを強調する。

③販売支援ツールの活用――販売支援ツールの活用は大切なセールススキルであることを理解し、優れたツールを効果的に使いこなすことの重要性を、ロールプレイを通じて浸透させる。

④成功例と失敗例の共有化――グループディスカッションを積極的に導入して悩みや問題点を全員で共有し、セールスをすれば誰でも成約できる雰囲気をつくる。
テラー向け研修は、このようなコンセプトのもとに始まりました。そしてその過程で、最も重要なのは「研修を継続すること」であると、気づかされたのです。

研修を継続することでモチベーションが伝播する

支店の人繰りや本部講師の確保など人的なコストのかかる集合研修には、批判的な意見も少なくありません。新商品の導入に伴う資格取得や事務処理方法など必要最低限の研修でさえ負担になっているのですから、テラーのスキルアップのために1人の行員を年に4回も招集する集合研修には賛否両論がありました。研修は効果を上げるため20名程度で行いますから、すべてのテラー(400名)に年4回の研修を実施するには、年間およそ80回もの研修が必要になるからです。

しかし、このように本部講師や支店に負担をかける研修も、継続することによって販売実績以上の副産物が現れ、それは従来の集合研修に対する認識や位置づけを大きく変えることとなりました。

通常、集合研修といえば、単なるセールスのトレーニングや知識の詰め込みの場所、あるいは、ちょっとした息抜きの場と考えている人も多いのではないでしょうか。特に受講経験のない役席や支店長の方々には、そのような傾向が強いように思われます。しかしぜひ一度、研修会場を覗いてみてください。支店では元気がないと思われている人が、他の受講者から刺激を受けて意識を高めていく様子を、間近に見ることができるはずです。

集合研修を行うに当たって、私たちが最も気をつけたこと。それは、参加者同士の情報の共有化であり、1人の受講者の高いモチベーションを他に伝播させ、受講者同士が刺激し合うことで、さらに高いモチベーションを創造させることです。そしてそのような研修は、講師の側にも大きな副産物をもたらしました。

研修は情報収集の場でありマーケティングの場でもある

講師側にとっての副産物とは、「研修を制する者は情報を制す」ということ。テラーたちのさまざまな声をじかに聞くことで、いち早く現場の情報を得ることができたのです。さらに、トップダウンではなくボトムアップで情報を伝えること、つまりテラーを通じて全店に必要な情報を伝えることもできるようになりました。

本部にいると現場の的確な情報を得るのは非常に難しく、一部の誤った情報が現場の意見としてまかり通ることもありがちです。しかし研修を行うことは、そのような間違った情報を否定できる確実な情報ソースをもつことにもなります。

具体的には、業務推進上の問題点の洗い出しをグループディスカッションのテーマにする方法などが有効でしょう。当然ながら、そのまとめを活用することによって営業戦略上のソリューションを導くことも可能ですし、個々の情報からは研修の推進に否定的な支店も把握でき、「押しかけ勉強会」のリスト作りにも役立ちます。

また研修の場を利用すれば、全店に向けた商品やキャンペーンのプロモーションが効率的にできるだけでなく、逆に新商品を導入する際のマーケティングも容易に行うことができます。「こんな商品があったら買いたいと思いますか」「この商品はお客様に薦めたいと思いますか」といった簡単なアンケートでさえ、研修の場がなければなかなか実施できないものです。

営業ツールのマーケティングも集合研修の隠された効果

「真に有効な営業ツールとは、どのようなものか」「このツールで、分散投資の必要性が理解できるのか」――多くの本部担当者が、こうした疑問を抱いているのではないでしょうか。そんな時には、試作段階でも構わないので、そのツールを使ったロールプレイングをカリキュラムに組み込んでみることをお勧めします。

すると、「本当に使われるのか」「改良点はどこか」などを実践的に把握することができます。そのうえ面白いことに、研修でセールスストーリーがイメージできると、「早くそのツールでセールスしてみたい」という欲求も生まれてきます。そして、次にそのツールによる成功体験をカリキュラムに反映すれば、新しい使い方を理解したテラーがさらに有効に使い始める。こんな好循環も生まれるのです。

集合研修には、このように隠された効果がたくさんあります。講師側はそうした効果を十分に意識しつつ研修を行い、受講者も常に新鮮な気持ちで集合研修に臨むことができれば、店頭販売比率も必然的に高まっていくのではないでしょうか。

第07回 伝わる研修を行うには

――研修は考え方を伝える最も優れたメディアである

継続=マンネリこの危険性をなくすために

2001年7月、私にとって一番思い入れが深く、また店頭の販売実績に一番影響を与えた「テラー向けスキルアップ研修」がスタートしました。紆余曲折もありましたが、2年後には以下のような効果が現れてきました。

①講師が「ロールプレイを5分間、始めてください」と言えば、その場で初めて顔を合わせたメンバーが相手でも、躊躇なくロールプレイが始まるようになっていた。

②最近の成功事例についてのグループディスカッションが、いつまでも話題が尽きないくらい盛り上がっていた。

③休憩時間になっても受講者同士が、業務推進上の悩みや愚痴などを年齢や地域を越えて話し合っていた。

④受講者間のスキルや意欲の差が、ほとんど感じられなくなってきた。

⑤若手の中に、ベテランをリードする意欲の高い行員が出てきた。

こうして、かつては何に対しても「出来ない理由」しか言わなかったベテラン行員が、驚くほど明るく真剣に、ロールプレイに取り組むようになっていったのです。

なぜこのような研修の環境が生まれたのか。それは、これからお話しする「常に刺激的な研修」を行ったからです。

メンバーの入れ替えは頻繁に

販売実績順の販編成

連載の第5 回に担当者ごとの販売実績ランキングを公表したことをお話しましたが、研修の班編成も、半年毎の販売実績をもとに3 コースにクラス分けを行いました。

すると大方の予想に反して、販売実績が良好なA クラスが有名なベテランテラーで占められることがありませんでした。それは、若手や今まで運に恵まれなかったテラー達がどんどんA クラス入りをしてきたからです。もちろんランクダウンもありますから、常に違う顔ぶれで研修が行われていたことになります。そして、毎回のクラス発表は銀行内でも話題となるようにもなったのです。

また「3名1 組のロールプレイング」や「6名で行うディスカッション」の研修でも、テーマごとにメンバーをシャッフルしました。なるべく多くの人と情報交換ができ、同時に緊張感を持続できるように工夫したわけです。

突然ですが、みなさんの「最も記憶に残る研修」はどのような研修でしたか。このような質問に対して意外に多いのが「誰々さんと一緒になった研修です」という答えです。同じ業務に就く尊敬できる人との出会いは、仕事のモチベーションを間違いなく上げることになります。ですから、グループ編成を考える手間は大変でしたが、支店規模や入行年次が偏らないようにするだけでなく、テラーの性格まで考慮して販編成を考えました。その結果、受講者の間にカリキュラムや講師の力に関係なく好循環な刺激が生まれ、モチベーションが高まっていきました。

受講者も回を重ねるごとにこのようなやり方に慣れ、初めて会ったテラー同士でも臆することなくロールプレイやディスカッションができるようになりました。むろん前向きな話だけでなく、上司に対する愚痴などが少なくなかったことも事実ですが、ガス抜きも研修の大きな役割といえるのではないでしょうか。

外部講師の活用

受講者が研修に慣れることは良いことですが、マンネリは馴れ合いに陥る危険性があります。そこで運用会社や保険会社の方にも、ずいぶん協力を仰ぎました。(最近では、運用会社や保険会社の方に研修のコンペを行っている金融機関もあるようです。)社内研修に外部の人を入れることを気にする向きもありますが、積極的に取り入れるべきだと思います。社内の人間が言うと角が立つようなことも、外部講師に代弁してもらうと、受講者も素直に聞き入れる場合があります。

ここで気を付けていただきたいのは、「丸投げをしない」ということです。研修は責任あるプロデューサーのもと統一感を持つ必要があります。外部講師を活用する時には、事前の打ち合わせと事後のフィードバックを徹底し、自由に意見交換できるパートナーシップを運用会社や保険会社の方と保つことが重要なのです。

バリュエーションのある研修

実戦的な研修といえばすぐ「ロールプレイング」が連想されますが、その前に商品の理解力を高めたり、顧客のニーズを引き出す考え方も理解してもらわなければなりません。そのような研修の例として、ポストイットを活用した「ブレーンストーミング」があります。以下は、具体的な研修の進め方です。

★研修の目的――為替の変動に影響を受ける3商品(ドル建て債券に投資する投資信託、外貨預金、ドル建て定額年金保険)の特徴と、そのセールスポイントを理解する
★人数――6名×4グループ

①3色のポストイット(7×12cm程度)とサインペンを用意する。

②まずはアンケート。「いま手元に300万円があります。今日から投資をする場合、あなたなら何を選びますか」。現状の知識の中でどんな商品が好みか、受講者に聞いてみます。

③アンケートの結果、外債ファンド15名、外貨預金6名、外貨建て年金保険3名となりました。
その人数をホワイトボードに書きとめます。

④ポストイットの活用。最初に外債ファンドの良い点を、ピンクのポストイットに3分間でできるだけ多く記入させます。
【注意点:事柄1つにつき1枚使用する。1人5枚以上を目標。パンフレットなど見ても構わないが、短時間に集中して考えさせる。時間は、受講者のレベルに応じて短縮してもいい】
⑤続いてピンクのポストイットに外債ファンドの悪い点、黄色のポストイットに外貨預金、青色のポストイットに外貨建て年金保険の良い点・悪い点を、順に記入させる。

⑥それぞれが記入したポストイットを3商品の良い点・悪い点に分けて、模造紙に貼り付ける。
これによって各商品に対する他人の考え方を知ることができ、セールスの幅が広がっていく。
【注意点:同様の事柄は重ねて、似たような事柄は並べるなど整理しながら貼り付けるようにする】
⑦グループ単位でブレーンストーミング。次に、それぞれの商品はどんな顧客に合っているのかをグループで考えさせる。
【注意点:時間がない場合は、1商品だけに絞ってもいい】
⑧おのおのの商品の良い点・悪い点、対象となる顧客について、グループの代表に発表させる。講師は発表を聞きながら足りない部分を補足し、ホワイトボードにまとめていく。

⑨最後にもう一度、「いま手元に300 万円があります……あなたなら何を選びますか?」と、同じ質問をする。すると必ず最初の答と違いがでるので、以下のようなまとめを行います。

「同じように為替の影響を受ける商品でも、色々な特徴があります。一方でこんなに選択肢があるのに、テラーの得意な商品だけをセールスされたお客様は不幸だと思いませんか」「では次のパートでは、みなさんの理解度がいちばん高まった外貨建て年金保険について、ロールプレイングを始めましょう」いかがでしょうか。このように一方的に伝えるのではなく、2 時間以上のグループディスカッションを経過することで、次に行うロールプレイングへの取り組みも大分変わっていきました。

以上が私たちが実践した「刺激的な研修」の方法です。このように受講者を常に新鮮な気持ちで取組める工夫をすれば「研修とは考え方を伝える最も優れたメディアである」ということもご理解いただけるのではないでしょうか。

研修方法はその金融機関独自のスタイルがあると思いますが、興味をもたれれば是非一部でも取り入れ見てください。

研修講師に必要なスキルとは

みなさんも経験があると思いますが、いつも寝てしまう講師の方っていませんか。もちろん受講者の取り組み姿勢も問われますが、そのような場合は、カリキュラムの組み方や講師のスキルに問題があるのではないでしょうか。では講師に必要なスキルとはどんなことなのでしょう。

ここでみなさんに質問です。講師となる方を人選する場合①その業務に精通した知識がある方②知識はないが人気者、どちらを選びますか。私は絶対に②の人気者を選びます。それだけ継続的な研修を行う講師のキャラクターが重要な要素だと思うからです。

もちろん精通した知識も重要です。しかし、講師のキャラクターやスキルも刺激的な研修を行う上で非常に大切なことです。私が考える講師に必要なスキルは①熱意②創意工夫③柔軟性④自分が主役でなく受講者が主役だと考えること⑤知識⑥人間的魅力です。

伝わる研修を行うには、このようなスキルを持つ伝える側の努力がとても重用になります。

第08回 おざなりにできないアフターフォロー

――売りっぱなしは販売員自身にもマイナス

お客様との認識のギャップ信頼関係の崩壊につながる

私の経験で、一番残念だったこと。それは「お客様との信頼関係の崩壊」です。その主な原因は、たとえば「十分に説明し、納得していただいたつもりでも、わずか1週間後にはお客様がその商品内容を忘れている」といった「お客様と販売員の認識のギャップ」にあったと思われます。

自分がセールスする時には、「○○様は商品の性質をよくご理解いただいてないようですね。そのような(説明不足の)会社で買うより、当方でご納得のうえご購入ください」などと調子の良いことを言いがちです。ところが、いざ自分も同じ立場になると、「丁寧に説明したのになぜ?……説明の仕方が悪いのだろうか」と、すっかり落ち込んでしまったものです。

このような「お客様との認識のギャップ」は、たとえ日頃から「適合性の原則」に基づいて販売していたとしても、なかなか避けることはできません。ではなぜ、こうした「認識のギャップ」が起きるのか。そこには、お客様と販売員の双方に、次のような原因があると考えられます。

① お客様が商品知識も不確かなまま、金融機関や販売員に依存しすぎている。

② 販売員に商品の基礎知識が欠けている、または販売の仕方が悪い。

販売員の知識水準にもスポットを当てる時期

①のようなケースでは、お客様に「自己責任」の認識が希薄で、商品を購入した動機も「○○さんから薦められたから」という例が多いようです。他人と同じものを望むのは日本人の国民性かもしれませんが、自分でどんな商品を、なぜ買ったのか、また購入後も商品の商品特性などについては、常に覚えておいていただけるように努力したいものです。

②のケースでは、問題はいっそう大きいといえるでしょう。ニュース記事などを見ても、窓販の実績が好調に推移している一方で、顧客とのトラブルも増加しているようですが、そのほとんどは販売員に基礎知識がないことや、販売の仕方が悪いことに原因があると思われます。

これは私自身の反省にもなるのですが、「100万円で毎月○○円の分配金が期待できます」というような単純なフレーズで販売するセールステクニックに依存しすぎたことも、大きく影響していると思います。連載の前半では、常に販売実績の上位者を目立たせることで社内の意識づけやモチベーションを維持したとお話しましたが、そろそろ販売実績だけではなく、販売員の知識水準にもスポットを当てる時期に来ていると、私は考えています。

成績上位者は常に相当なプレッシャーに耐えつつ、モチベーションを保って業務を遂行されていると思います。しかし「何かあった時」に責任を問われるのは、残念ながら最前線の販売員自身でもあります。自らを守るために、日々のマーケット知識や資産運用のスキルを身につけ、「画一的なプッシュセールス」から1日も早く脱却するよう努力しましょう。

認識のギャップの穴をアフターフォローで埋める

とはいえ、顧客サイドにも原因の一端がある以上、「認識のギャップ」を完全になくすのは至難の業。となると、商品を購入していただいた後のフォローが重要な意味をもってきます。証券会社と違って多くの銀行での店頭販売には明確な担当者制がないため、販売後のきめ細かいフォローはできていないのが実情ではないでしょうか。

そこで、店頭は販売専門のチャネルと割り切って、以下のようなアフターフォローを考えてみてはいかがでしょうか。それは、

①運用報告会やセミナーの積極的な展開

②コールセンターやHP の充実・強化

③VTRや法定帳簿類などの活用

といったことです。

①に関して思い出すのは、銀行員時代にやりたくてできなかったことです。それは外部講師に頼らない、金融機関独自のセミナー講師の育成でした。大勢のお客様の前で話すことのできる講師を多数育てれば、いつでも、どこの支店でも運用報告会等のセミナーが開催できます。ホテルに有名タレントを呼んで行う豪華なセミナーも大切でしょうが、もっと地道に、自社の講師によるセミナーを積極的に展開するほうが、アフターフォローとしては効果的ではないしょうか。

講師の確保に苦労されている多くの運用会社や保険会社の方も、積極的に協力していただけるはずです。プレゼンテーションスキルの習得など、研修の仕組みが充実している運用会社や保険会社のノウハウをご教授いただき、優れた人材を年に数人ずつでも育成することが、やがて大きな成果をもたらすと思います。

②については、今さら言うまでもないことかもしれません。先日、日経ビジネス誌の「売りっぱなしの罪」という特集に、さまざまな業種でのアフターサービスの満足度ランキングが掲載されていましたが、コールセンターやインターネットなどの充実度が大きな決定要素になっていました。

不特定多数のお客様に投資型金融商品を販売する窓口販売にとって、コールセンターやインターネットによるバックアップはますます重要になってくるでしょう。

顧客のニーズに合ったキャンペーンや商品紹介を

そして、ぜひ取り組んでいただきたいのが、③のVTRや法廷帳簿類の活用です。たとえば、いったん商品の購入をご納得いただいても、「お父さん、そんな訳の分からないもの買ってはいけない」などというご家族の反対が原因で成約にいたらなかったケースは意外と多いものです。そんなときにもVTRなどの活用は有効だと思います。「このビデオをご家族でご覧ください。そしてなおご不明な点がありましたら、皆さんご一緒にご来店ください」。そう言って、商品案内のVTRやDVDをお渡しするような感じです。

そもそもテラーでも説明が難しい商品の購入を、お客様がご家族に納得させるのは無理があります。また今後、いっそう内容の複雑な商品が登場してきても、VTRやDVDは対面セールスを補強するツールとして活用できるのではないでしょうか(ただし映像だけで完結するなどと、決して思わないこと)。また自行のHPやATMコーナー、店内の大型ディスプレイなどでご覧いただけるようにしてもいいかもしれません。

法定帳簿類には、取引報告書、取引残高報告書、収益分配金のご案内等があります(世間の常識で考えれば、読めばすぐに理解できる書類が送付されるべきですが、法律用語などが多く非常にわかりにくいのはご存じのとおり)。しかも、それらを相当の郵送コストをかけて、かなりの頻度で送っています(毎月分配型ファンドの保有者が10 万人いれば、年間の郵送コスト=10 万人×12 回×60 円=7200 万円にもなります)。

もちろん法廷帳簿の中身を変えることはできませんが、せめてお客様が楽しみにされている分配金のお知らせなどに、クレジットカードの利用明細に付いてくるようなDMを同封してみてはいかがでしょうか。一律同じ案内をするもよし、あるいはお客様をセグメントして、顧客のニーズに合ったキャンペーンや新商品の紹介、セミナーの案内などをすれば、さまざまなクロスセルの可能性が広がっていくでしょう。

販売員の最高の喜びはお客様に感謝されること

きめ細かなアフターフォローでお客様に最高の満足を提供できれば、クレームなどから店頭の販売員を守ることになり、テラーの地位の向上にもつながります。そして、ノルマに追われつつも一所懸命がんばっている販売員たちのモチベーションを、いっそう高めることもできるでしょう。

販売員にとっての最高の喜びは、上司に褒められることよりも、お客様に本当に感謝されていると実感できることだと、私は思います。一方で販売員の方は、日常的に知識をインプットする習慣を身につける必要があることは、言うまでもありません。

第09回 店頭販売を支える本部担当者の役割

――新しいビジネスには無限のチャンスがある

花形部署に変貌したリテール企画・推進業務

今でこそ投資型金融商品の企画・推進部署は銀行内の花形ともいえるポジションを占めていますが、私が配属された2000 年秋ごろは、営業店の仲間から「河合も大変な仕事だけど頑張れよ」などと励まされるような存在でした。周囲から同情されるほど実績の上がらない業務を、たった1 人で担当していたわけです。ところがわずか数年の間に、状況は大きく変わっていきます。リテールの企画・推進は銀行業務における重要な柱となって、部署自体も大きな組織になりました。

とはいえ、問題がなくなったわけではありません。銀行にとって、投資型金融商品の販売は依然として新しいビジネス領域であり、今後も新たな取り組みが必要な分野であることに変わりはありません。しかも一方で、2000 年当時に比べると企画・推進業務に対する注目度も高く、「新商品は必ずある程度の数字を達成しなければならない」というプレッシャーも加わって、本部担当者が難しい立場に立たされる場合も少なくないでしょう。

しかし、ぜひご記憶いただきたいのは、こうした新しいビジネスは無限の可能性を秘めていて、それに携わることは自分を飛躍させる大きなチャンスでもあるということです。私自身、退職後に起業をしてこのような連載を執筆できるようになった今も、店頭販売の草創期にめぐり合わせた幸運をつくづくと感じています。現在、本部で企画・推進業務を担当している皆さんも、ぜひ新しいことに果敢にチャレンジして、自らのキャリアアップにつなげていただきたいと思います。

では今後、店頭販売をさらに伸ばしていく次の作戦としては、どんなことが考えられるのでしょうか。

ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン代表(2005年当時)の山本真司氏は「まだまだ儲かる銀行のサイン」として、①顧客への説明パンフレット、広告などがちぐはぐ、②新商品、新施策と現場の実情に差、③勝手な思い込みで新しい顧客ニーズに気づかない、④現場の行員を二等市民扱い(本部がエライ)、⑤顧客クレーム処理は現場任せ、⑥本部との調整が顧客にシワ寄せ、⑦評価項目過多症、⑧一度うまくできた事はいつでも全行でできると勘違いする、といったことを指摘されています(山本氏の講演から)。

ここに、店頭販売をさらに伸ばすためのヒントがあると、私は考えています。

店頭販売を伸ばすために本部がやるべきこと

1.真に有効な販売支援ツールの提供 新しいビジネスゆえに思いつきで作ったパンフレット類が、今もそのままになっていませんか。

また商品提供会社のポスターなどに統一感がなく、顧客に混乱を招いていませんか。総合的な資産運用の提案ツールなどを新たに作れば時間もお金もかかりますが、一定レベルの均一化されたサービスを提供するにはパンフレット類をこまめに更新し、新しいデータで的確な提案ができる体制を整える必要があります。店頭販売では「販売支援ツールなどの事前準備」がきわめて重要で、本部担当者はテラーの方々に、真に販売をサポートできる有効な武器(アイテム)を提供しましょう。

2.市場や現場の実情に即した対応
新商品の導入やキャンペーンなどは、マーケット環境の変化によってタイミングがずれることがあります。たとえば「円高トレンドの中での外貨商品のキャンペーン」や「株式市場が大幅に下げている環境での株式ファンドの導入」など、マーケットの実情にそぐわない販売方針に固執することは、顧客ニーズに反するだけでなく現場のモチベーションも下げてしまいます。マーケット環境や現場の実情に即した、臨機応変な対応が必要ではないでしょうか。

3.業績評価基準の明確化
最近はわかりませんが、かつては目標が販売額なのか残高なのか、または手数料収入なのかあいまいで、評価方法が頻繁に変更されることも珍しくありませんでした。このように評価項目が多すぎると現場を混乱させるだけでなく、長期的な観点で顧客ニーズに合った提案が難しくなります。

支店評価のルールをシンプルで普遍的なものにすれば販売員の評価基準も明確になり、さらには「モチベーションを維持した販売力のアップ」にもつながると思います。

4.販売員を守る意識と体制
販売が拡大すれば、必然的に顧客からのクレームも増加します。むろん現場の責任で対応することが基本ではありますが、本部が「しりだけ叩いてフォローしない」のでは、現場のモチベーションは下がります。常に「販売員の味方である」という姿勢を、本部は忘れてはいけません。

また「誤解を招くセールスは販売員のリスクとなること」を、研修等で徹底することも重要です。

とくに成績上位の販売員に、販売額を抑制するかのような指導は徹底しにくいものですが、「販売員を守る」ために本部が定期的にチェックをし、安心して販売できる環境をつくる必要があると思います。

一方で「本部の壁」が厚く、顧客にシワ寄せが行くようなことも、あってはなりません。「本部から言われているので……」といった説明しかできない販売員はお客様の信用を失い、当然、販売員のモチベーションも下がります。

5.キャンペーンではなくコンサルティング主体にこれは私も大いに反省しているのですが、販促キャンペーンや単位型投資信託の導入などの際に、しばしば顧客ニーズを無視し、ひたすら数字の獲得を目指す傾向が見られます。しかし、こうしたワンパターンの販売スタイルは、間違いなく販売員を疲弊させます。理想主義と怒られそうですが、なるべく早くカウンセリングやコンサルティング主体の、顧客本位の販売手法に転換する必要があるのではないでしょうか。

6.商品提供会社との連携強化
商品提供会社との信頼関係の構築は、本部担当者の重要な仕事の一つです。多くの類似商品が競合する金融機関で取り扱われている状況では、「自分たちはなぜその商品をお薦めするのか」を販売員が明確に理解しておく必要があり、そのためにも、商品提供会社の協力は欠かせません。

また商品提供会社は、同じ目的をもったパートナーです。商品企画や業界動向の把握、または研修講師の派遣、企画・推進業務のフォローなど、商品提供会社に頼ることは今後ますます多くなっていくでしょう。お互いが長きにわたるパートナーとして、尊敬し合える関係を築くことが必要だと思います。

7.顧客ニーズの発掘
お客様のニーズを、最も直接的に把握できるのが店頭です。何度もお話しましたが、テラー研修などを通じて効率的に顧客ニーズのマーケティングを行いましょう。また、月に1回は繁忙店の店頭で自らセールスを行うなど、なるべくお客様に近い位置で幅広くお客様の声を集めてみてはいかがでしょうか。

私もヘルパーとして、ずいぶん店頭に立ちましたが、店頭でごく普通のお客様に接することが何よりの勉強になりました。その経験は新しい企画に生かされ、さらには研修における説得力を倍増させることにもつながります。本部の仕事は多忙ゆえ容易ではないかもしれませんが、ぜひ現場に出て「自ら選択した商品を自らセールスし」、「自ら作成した販売ツールや帳票類を実際に使ってみる」ことによって、本当の顧客ニーズを発掘すべきだと思います。

以上が、私の考える「本部のやるべきこと」です。店頭に限らず、あらゆる販売推進にもいえることですが、なかなかできていないのが実情ではないでしょうか。自らの反省を込めて、述べさせていただきました。

第10回 (最終回)リテール業務の地位向上のために

――ただ売るだけでは、必ず限界がくる

リテールは近いうちに銀行業務の花形になる

今から3 年前、私が新入行員の研修を行っていた際に、「皆さんはどんな仕事をやりたいですか」と聞いた時のショックは忘れられません。

折しも銀行では、テラーによる投資型金融商品の販売力が認められ、手数料収益の柱としてリテール業務が注目を集めていました。にもかかわらず、この業務に就きたいと答えた新入行員は100名のうちわずか2 名。残りのほとんどは「法人営業」を希望していたのです。

先日も「出世」を特集したある雑誌には、「法人担当が花形。リテール部門は、今後の収益源として強化すると言いつつも、実行部隊を担う行員は出世できない」などと書かれていました。しかし、それはまったく違うと、私は思います。

連載の第1回でお話したように、アメリカではベビーブーマー(日本の団塊の世代に当たる人口の塊)が引退しはじめた90 年代後半から、金融商品の種類が増えて投資環境が複雑化する中でカウンセリングに対するニーズが高まり、資産運用に関する「コンサルティングスキル」に優れた銀行が高い支持を集めるようになりました。

日本でも、リテール業務こそが花形であり、そこで働くことに誇りをもてる時代が、すぐそこまで来ています。しかしそうなるためには、「今この分野で働いている人たちがもう一皮むける」必要があると、私は思っています。

画一的プッシュセールスから脱却するしかない

では、どうすれば「もう一皮むける」のか。それにはやはり、従来型の「画一的なプッシュセールスから抜け出すこと」しかないのではないでしょうか。なぜなら今後、個人投資家の多くがインターネットなどを通じて積極的に情報収集を行うようになると、「100 万円で毎月○○円の分配金が期待できます」とか「○○年持つことで元本が保証されます」といったセールス手法だけでは通用しなくなるからです。そして投資家のニーズに応えられなくなった時、販売員は精神的に疲弊し、セールスするモチベーションも維持できなくなるでしょう。

また何度もお話していますが、価格変動商品をセールスするということは販売員自身も少なからぬリスクを負うということであり、顧客との間にトラブルが発生した場合、結局のところ「自分で自分を守る以外にない」という認識を、販売員はもつべきでしょう。となると、今やるべきことは「プッシュセールスのテクニックを磨く」ことでなく、まず「正しい知識を身につける」ことではないかと、私は思います。

そうした問題意識のもとに「コンサルティングスキル」を高めるトレーニングを実践していけば、それは間違いなく販売員自身を成長させ、社会人としての価値を高め、ひいてはリテール業務そのものの地位を向上させることになるはずです。

皆さんは毎日、経済新聞を読んでいますか

研修中にあるテラーに、「なぜ日経を読まないの?」と聞いたことがあります。すると、「書いてある言葉が理解できないから、読んでもつまらない」という答が返ってきました。研修を受講する日だけは日経新聞を買う――そんな人も、たぶん少なくないと思います。しかしテラーがプッシュセールスから脱却し、モチベーションを高めて最高の顧客満足を提供するには、やはり知識不足を克服しなければなりません。

とはいえ私自身、1人当たり年4回の研修だけでは、この課題を果たすことはできませんでした。

研修は、経験やセールステクニックを伝え、モチベーションを維持するには効果的ですが、新鮮な知識を絶えずインプットし続けることはできないからです。

そこで、毎日の経済指標をノートに転記してもらうことにしました。しかし、これだけでは「上がった」「下がった」を見るだけになります。やはり、本誌の真壁教授の連載『運用アドバイスのための日経新聞の読み方』にもあるように、「このような要因で上がった」「こうした要因で下がった」ということを理解し、自分の言葉で説明できなければ、プッシュセールスから抜け出すことはでき ません。

知識を供給するインフラが必要ではないのか

では、どうすれば自分の言葉で話せるようになるのか。残念ながらいまだに、これといった確かな方法は見つかっていませんが、日々知識を蓄え続けていけば、その日はきっと近づくはずです。

以前、「私は、日経を摂っている」というCMがありましたが、食事やサプリメントと同様、経済情報なども習慣的に摂取することが知識を蓄える最善の方法だと、私は考えています。そこでご参考までに、この場を借りて私の取り組みをご紹介したいと思います。

私はまず、この難問を解くためには従来の発想とは違う「知識を供給するインフラ」が必要だという仮説を立てました。それは、①自尊心を傷つけず(「なんだ簡単ではないか」と感じさせ)、②強制されている感じがなく(自ら進んで楽しめる)、③競争心を刺激する(負けず嫌いを利用する)もので、なおかつ、④無料ないしわずかなコストで手に入るものであれば申し分ありません。そこで到達した結論が、ケータイ(携帯電話)の活用です。

GDPやFRBといった見慣れない用語も、ケータイを通じて毎日のように目にすれば自然に理解できます。株式市場の動きなども、「7 月14 日、ゼロ金利政策が解除された。さて、その日の株価は次のどれ?――①上がった、②下がった、③変わらない」。こんな問題に日常的に接することで、感覚的に身につくのではないでしょうか。

このようにテラーが楽しみながら利用するサイトができないかと考え、「窓販テラー向け携帯サイト」(むろん男性にも十分満足いただける内容です)を試験的に運営しているというわけです。

この連載も最終回になりましたが、私がお伝えしたかったのは、店頭販売は限りない可能性を秘めた分野であって、数年で数百倍の売上増も不可能ではないということです。この連載がどの程度の参考になったのか自信はありませんが、お話したような試行錯誤を繰り返しながら店頭販売実績を伸ばしてきたということは、ぜひご理解ください。

最後に、貴重な経験をさせていただいた前職場の皆様や、運用会社、保険会社の皆様に改めて感謝いたします。今までの連載の内容などについては、下記までお気軽にお問い合わせください。長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。