Vol. 10

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第10回 (最終回)リテール業務の地位向上のために」 ただ売るだけでは、必ず限界がくる

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.12.01

“リテールは近いうちに銀行業務の花形になる”

今から3 年前、私が新入行員の研修を行っていた際に、「皆さんはどんな仕事をやりたいですか」と聞いた時のショックは忘れられません。

折しも銀行では、テラーによる投資型金融商品の販売力が認められ、手数料収益の柱としてリテール業務が注目を集めていました。にもかかわらず、この業務に就きたいと答えた新入行員は100名のうちわずか2 名。残りのほとんどは「法人営業」を希望していたのです。

先日も「出世」を特集したある雑誌には、「法人担当が花形。リテール部門は、今後の収益源として強化すると言いつつも、実行部隊を担う行員は出世できない」などと書かれていました。しかし、それはまったく違うと、私は思います。

連載の第1回でお話したように、アメリカではベビーブーマー(日本の団塊の世代に当たる人口の塊)が引退しはじめた90 年代後半から、金融商品の種類が増えて投資環境が複雑化する中でカウンセリングに対するニーズが高まり、資産運用に関する「コンサルティングスキル」に優れた銀行が高い支持を集めるようになりました。

日本でも、リテール業務こそが花形であり、そこで働くことに誇りをもてる時代が、すぐそこまで来ています。しかしそうなるためには、「今この分野で働いている人たちがもう一皮むける」必要があると、私は思っています。

“画一的プッシュセールスから脱却するしかない”

では、どうすれば「もう一皮むける」のか。それにはやはり、従来型の「画一的なプッシュセールスから抜け出すこと」しかないのではないでしょうか。なぜなら今後、個人投資家の多くがインターネットなどを通じて積極的に情報収集を行うようになると、「100 万円で毎月○○円の分配金が期待できます」とか「○○年持つことで元本が保証されます」といったセールス手法だけでは通用しなくなるからです。そして投資家のニーズに応えられなくなった時、販売員は精神的に疲弊し、セールスするモチベーションも維持できなくなるでしょう。

また何度もお話していますが、価格変動商品をセールスするということは販売員自身も少なからぬリスクを負うということであり、顧客との間にトラブルが発生した場合、結局のところ「自分で自分を守る以外にない」という認識を、販売員はもつべきでしょう。となると、今やるべきことは「プッシュセールスのテクニックを磨く」ことでなく、まず「正しい知識を身につける」ことではないかと、私は思います。

そうした問題意識のもとに「コンサルティングスキル」を高めるトレーニングを実践していけば、それは間違いなく販売員自身を成長させ、社会人としての価値を高め、ひいてはリテール業務そのものの地位を向上させることになるはずです。

“皆さんは毎日、経済新聞を読んでいますか”

研修中にあるテラーに、「なぜ日経を読まないの?」と聞いたことがあります。すると、「書いてある言葉が理解できないから、読んでもつまらない」という答が返ってきました。研修を受講する日だけは日経新聞を買う――そんな人も、たぶん少なくないと思います。しかしテラーがプッシュセールスから脱却し、モチベーションを高めて最高の顧客満足を提供するには、やはり知識不足を克服しなければなりません。

とはいえ私自身、1人当たり年4回の研修だけでは、この課題を果たすことはできませんでした。

研修は、経験やセールステクニックを伝え、モチベーションを維持するには効果的ですが、新鮮な知識を絶えずインプットし続けることはできないからです。

そこで、毎日の経済指標をノートに転記してもらうことにしました。しかし、これだけでは「上がった」「下がった」を見るだけになります。やはり、本誌の真壁教授の連載『運用アドバイスのための日経新聞の読み方』にもあるように、「このような要因で上がった」「こうした要因で下がった」ということを理解し、自分の言葉で説明できなければ、プッシュセールスから抜け出すことはでき ません。

“知識を供給するインフラが必要ではないのか”

では、どうすれば自分の言葉で話せるようになるのか。残念ながらいまだに、これといった確かな方法は見つかっていませんが、日々知識を蓄え続けていけば、その日はきっと近づくはずです。

以前、「私は、日経を摂っている」というCMがありましたが、食事やサプリメントと同様、経済情報なども習慣的に摂取することが知識を蓄える最善の方法だと、私は考えています。そこでご参考までに、この場を借りて私の取り組みをご紹介したいと思います。

私はまず、この難問を解くためには従来の発想とは違う「知識を供給するインフラ」が必要だという仮説を立てました。それは、①自尊心を傷つけず(「なんだ簡単ではないか」と感じさせ)、②強制されている感じがなく(自ら進んで楽しめる)、③競争心を刺激する(負けず嫌いを利用する)もので、なおかつ、④無料ないしわずかなコストで手に入るものであれば申し分ありません。そこで到達した結論が、ケータイ(携帯電話)の活用です。

GDPやFRBといった見慣れない用語も、ケータイを通じて毎日のように目にすれば自然に理解できます。株式市場の動きなども、「7 月14 日、ゼロ金利政策が解除された。さて、その日の株価は次のどれ?――①上がった、②下がった、③変わらない」。こんな問題に日常的に接することで、感覚的に身につくのではないでしょうか。

このようにテラーが楽しみながら利用するサイトができないかと考え、「窓販テラー向け携帯サイト」(むろん男性にも十分満足いただける内容です)を試験的に運営しているというわけです。

この連載も最終回になりましたが、私がお伝えしたかったのは、店頭販売は限りない可能性を秘めた分野であって、数年で数百倍の売上増も不可能ではないということです。この連載がどの程度の参考になったのか自信はありませんが、お話したような試行錯誤を繰り返しながら店頭販売実績を伸ばしてきたということは、ぜひご理解ください。

最後に、貴重な経験をさせていただいた前職場の皆様や、運用会社、保険会社の皆様に改めて感謝いたします。今までの連載の内容などについては、下記までお気軽にお問い合わせください。長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。

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