Vol. 08

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第8回 おざなりにできないアフターフォロー」 売りっぱなしは販売員自身にもマイナス

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.10.01

“お客様との認識のギャップ信頼関係の崩壊につながる”

私の経験で、一番残念だったこと。それは「お客様との信頼関係の崩壊」です。その主な原因は、たとえば「十分に説明し、納得していただいたつもりでも、わずか1週間後にはお客様がその商品内容を忘れている」といった「お客様と販売員の認識のギャップ」にあったと思われます。

自分がセールスする時には、「○○様は商品の性質をよくご理解いただいてないようですね。そのような(説明不足の)会社で買うより、当方でご納得のうえご購入ください」などと調子の良いことを言いがちです。ところが、いざ自分も同じ立場になると、「丁寧に説明したのになぜ?……説明の仕方が悪いのだろうか」と、すっかり落ち込んでしまったものです。

このような「お客様との認識のギャップ」は、たとえ日頃から「適合性の原則」に基づいて販売していたとしても、なかなか避けることはできません。ではなぜ、こうした「認識のギャップ」が起きるのか。そこには、お客様と販売員の双方に、次のような原因があると考えられます。

① お客様が商品知識も不確かなまま、金融機関や販売員に依存しすぎている。

② 販売員に商品の基礎知識が欠けている、または販売の仕方が悪い。

“販売員の知識水準にもスポットを当てる時期”

①のようなケースでは、お客様に「自己責任」の認識が希薄で、商品を購入した動機も「○○さんから薦められたから」という例が多いようです。他人と同じものを望むのは日本人の国民性かもしれませんが、自分でどんな商品を、なぜ買ったのか、また購入後も商品の商品特性などについては、常に覚えておいていただけるように努力したいものです。

②のケースでは、問題はいっそう大きいといえるでしょう。ニュース記事などを見ても、窓販の実績が好調に推移している一方で、顧客とのトラブルも増加しているようですが、そのほとんどは販売員に基礎知識がないことや、販売の仕方が悪いことに原因があると思われます。

これは私自身の反省にもなるのですが、「100万円で毎月○○円の分配金が期待できます」というような単純なフレーズで販売するセールステクニックに依存しすぎたことも、大きく影響していると思います。連載の前半では、常に販売実績の上位者を目立たせることで社内の意識づけやモチベーションを維持したとお話しましたが、そろそろ販売実績だけではなく、販売員の知識水準にもスポットを当てる時期に来ていると、私は考えています。

成績上位者は常に相当なプレッシャーに耐えつつ、モチベーションを保って業務を遂行されていると思います。しかし「何かあった時」に責任を問われるのは、残念ながら最前線の販売員自身でもあります。自らを守るために、日々のマーケット知識や資産運用のスキルを身につけ、「画一的なプッシュセールス」から1日も早く脱却するよう努力しましょう。

“認識のギャップの穴をアフターフォローで埋める”

とはいえ、顧客サイドにも原因の一端がある以上、「認識のギャップ」を完全になくすのは至難の業。となると、商品を購入していただいた後のフォローが重要な意味をもってきます。証券会社と違って多くの銀行での店頭販売には明確な担当者制がないため、販売後のきめ細かいフォローはできていないのが実情ではないでしょうか。

そこで、店頭は販売専門のチャネルと割り切って、以下のようなアフターフォローを考えてみてはいかがでしょうか。それは、

①運用報告会やセミナーの積極的な展開

②コールセンターやHP の充実・強化

③VTRや法定帳簿類などの活用

といったことです。

①に関して思い出すのは、銀行員時代にやりたくてできなかったことです。それは外部講師に頼らない、金融機関独自のセミナー講師の育成でした。大勢のお客様の前で話すことのできる講師を多数育てれば、いつでも、どこの支店でも運用報告会等のセミナーが開催できます。ホテルに有名タレントを呼んで行う豪華なセミナーも大切でしょうが、もっと地道に、自社の講師によるセミナーを積極的に展開するほうが、アフターフォローとしては効果的ではないしょうか。

講師の確保に苦労されている多くの運用会社や保険会社の方も、積極的に協力していただけるはずです。プレゼンテーションスキルの習得など、研修の仕組みが充実している運用会社や保険会社のノウハウをご教授いただき、優れた人材を年に数人ずつでも育成することが、やがて大きな成果をもたらすと思います。

②については、今さら言うまでもないことかもしれません。先日、日経ビジネス誌の「売りっぱなしの罪」という特集に、さまざまな業種でのアフターサービスの満足度ランキングが掲載されていましたが、コールセンターやインターネットなどの充実度が大きな決定要素になっていました。

不特定多数のお客様に投資型金融商品を販売する窓口販売にとって、コールセンターやインターネットによるバックアップはますます重要になってくるでしょう。

“顧客のニーズに合ったキャンペーンや商品紹介を”

そして、ぜひ取り組んでいただきたいのが、③のVTRや法廷帳簿類の活用です。たとえば、いったん商品の購入をご納得いただいても、「お父さん、そんな訳の分からないもの買ってはいけない」などというご家族の反対が原因で成約にいたらなかったケースは意外と多いものです。そんなときにもVTRなどの活用は有効だと思います。「このビデオをご家族でご覧ください。そしてなおご不明な点がありましたら、皆さんご一緒にご来店ください」。そう言って、商品案内のVTRやDVDをお渡しするような感じです。

そもそもテラーでも説明が難しい商品の購入を、お客様がご家族に納得させるのは無理があります。また今後、いっそう内容の複雑な商品が登場してきても、VTRやDVDは対面セールスを補強するツールとして活用できるのではないでしょうか(ただし映像だけで完結するなどと、決して思わないこと)。また自行のHPやATMコーナー、店内の大型ディスプレイなどでご覧いただけるようにしてもいいかもしれません。

法定帳簿類には、取引報告書、取引残高報告書、収益分配金のご案内等があります(世間の常識で考えれば、読めばすぐに理解できる書類が送付されるべきですが、法律用語などが多く非常にわかりにくいのはご存じのとおり)。しかも、それらを相当の郵送コストをかけて、かなりの頻度で送っています(毎月分配型ファンドの保有者が10 万人いれば、年間の郵送コスト=10 万人×12 回×60 円=7200 万円にもなります)。

もちろん法廷帳簿の中身を変えることはできませんが、せめてお客様が楽しみにされている分配金のお知らせなどに、クレジットカードの利用明細に付いてくるようなDMを同封してみてはいかがでしょうか。一律同じ案内をするもよし、あるいはお客様をセグメントして、顧客のニーズに合ったキャンペーンや新商品の紹介、セミナーの案内などをすれば、さまざまなクロスセルの可能性が広がっていくでしょう。

“販売員の最高の喜びはお客様に感謝されること”

きめ細かなアフターフォローでお客様に最高の満足を提供できれば、クレームなどから店頭の販売員を守ることになり、テラーの地位の向上にもつながります。そして、ノルマに追われつつも一所懸命がんばっている販売員たちのモチベーションを、いっそう高めることもできるでしょう。

販売員にとっての最高の喜びは、上司に褒められることよりも、お客様に本当に感謝されていると実感できることだと、私は思います。一方で販売員の方は、日常的に知識をインプットする習慣を身につける必要があることは、言うまでもありません。

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