Vol. 03

投資型金融商品を伸ばす「店頭営業体制」の作り方 「第3回 店頭販売の課題」

CATEGORY
近代セールス
DATE
2006.05.01

“好調な「店頭販売」にも課題は山積”

2005 年が「銀行窓販絶好調!」となった原因は、銀行窓販業務に携わっている方々(特に販売員)の「血と汗と涙の結晶」だと、最初の回にお話しました。しかし同時に05 年は、マーケット環境にずいぶん助けられたということも忘れてはいけません。預金は相変わらずの超低金利が続くなか、世界的な景気の好循環により、「どの分野に投資しても儲かった」とさえ言われるほど、投資家にとっては「恵まれた1 年」だったといえるでしょう。今でもテレビ、雑誌、書籍などには、「投資をあおる」ようなフレーズがあふれています。銀行の窓口でも、お客様から「投資をしてみたい」と相談をもちかけられることがあったのではないでしょうか。

しかし銀行窓販の短い歴史の中でも、多くのお客様が「投資など絶対にしたくない」と思われた苦難の時期があったことを、皆さん覚えていますか。最近になって販売業務に携わるようになった方は、ご存知ないかもしれません。それはITバブルの崩壊が始まった2000 年と、エンロンショックに見舞われた01 年のことです。なかでもエンロンショックは、当時銀行の本部にいた私にとって忘れることのできない出来事でした。

アメリカの大手エネルギー会社エンロンの経営破綻により、公社債投信が元本割れとなったのです。その時に、泣きながらお客様に応対をした女性販売員がいました。彼女は、それまで「お客様に少しでも有利な商品を」という純粋な考えのもと、定期預金より運用実績の良いその公社債投信を積極的に販売し、全店でトップの販売件数を達成していました。

もちろん彼女は「元本割れの恐れがある商品です」という説明はしていたため、深刻なトラブルにはなりませんでした。しかし、お客様のことを思うと、しばらくはエンロンショックから精神的に立ち直ることができませんでした。これからのお話の中心になるテラーの方々が投信販売にネガティブになると困りますが、このような「想定できないケースが起きるかもしれない」ということは、ぜひとも認識しておいていただきたいと思います。

“個人投資家から見放されないために”

店頭販売の優位性については、前回のお話でご理解いただけたと思います。近年は定期分配型投信の活況などで、多くの金融機関の店頭でも株式投信や変額年金保険の販売実績が伸びていることでしょう。しかし店頭販売には、今なお多くの課題が残されています。特に個人投資家の立場からすると、問題は非常に大きいように思われます。販売員自身にかかわる問題も、銀行の組織としての問題もありますが、せんじ詰めれば販売する側の「コンサルティングスキルをどう高めるか」という点に行き着くでしょう。具体的には、以下のような諸点です。

“販売環境が整備できていない”

今の金融機関の店頭は、どう見てもコンサルティング業務にふさわしい環境とはいえません。かつて私が在籍していた銀行でも、01 年以前は「待ち時間短縮」のためにローカウンターを減らし、クイック返却のためのハイカウンターを増設していました。

その後、少しずつそのような環境は改善に向かっており、最近は相談専門のデスクやブースを設置している銀行も増えているようですが、店舗レイアウトの変更には相応の資金が必要になり、一朝一夕で何とかなるものではありません。まず肝心なことは、店頭販売を販売戦略の中心に位置づけるということでしょう。

“中途退職者が多い”

女性販売員はどうしても結婚や出産による退職が多く、スキルをたくわえた大切な人材が簡単に職場を去ってしまいます。やる気のある有能なテラーを失うのは大きな損失で、非常に残念なことです。最近は多様化した雇用ニーズに応えるため、そのような女性やリタイアした証券出身者などが勤務しやすいよう、出勤するする曜日や時間帯をフレキシブルにし、優秀な人材の確保に努めている金融機関もあるようです。

“マネジメントスキルが足りない”

少数のスーパー・セールスレディーに頼ることなく、テラー全員が恒常的に販売実績を上げることが理想であるとすれば、その販売員のモチベーションを管理するマネジメントスキルはきわめて重要です。私の経験でも「支店の雰囲気が悪い」「渉外とテラーのコミュニケーションがよくない」、あるいは「テラーリーダーが投資型商品の販売に消極的である」といった問題を抱える支店の店頭販売比率は低く、販売の不振はマネジメントに起因することが少なくありませんでした。

ところが現状では、そうしたマネジメントスキルを向上させる研修などが、体系化できていない金融機関が多いのではないでしょうか。いま販売の最前線にいるテラーが管理職になる時にそなえ、マネジャー研修のシステム作りを急ぐ必要があると、私は思います。

“知識・認識不足の役職者が多い”

従来の銀行にはなかった業務のため、内部役席、内部管理責任者、営業責任者など役職者の中に、いまだに投資型商品の販売に否定的な人達が多いのも事実です。それもあってか、問題やトラブル防止への対処力が弱い上席も少なくありません。しかし、今後予定されている「投資サービス法」の施行などを考えても、早急な対応が必要です。

今までは主に販売員向けの実践的な研修などに力が注がれてきましたが、上記のモチベーション管理も含め、管理職の様々なスキルアップが必要になっています。

“アフターフォローの体制がない”

一般的には、証券会社と違って銀行には明確な担当者制がないため、販売後のきめ細かいフォローまでは、なかなか目が届きません。また「担当者をつけて欲しい」という顧客側のニーズがあっても、店頭販売は数多くのお客様を相手にしなければならないため、「言うは易く行うは難し」といったところが実情でしょう。

こうした問題を解決するには、CRM(Customer Relationship Management)などを強化して「どの支店の誰が接してもお客様に失礼のない対応」をできるようにするか、あるいは「限りなく担当者制に近い制度」を導入するかなど、差し当たって「戦略の方向性を決めること」が必要になります。

しかし、そこまで難しく考えなくても、たとえば「運用報告会等のセミナーを効果的に活用する」などは、どの銀行でもすぐにできるアフターフォローです。それ以上のフォローが必要なお客様には、違うチャネルで対応することが現実的かもしれません。

“販売員のコンサルティングスキル不足”

冒頭でも述べたとおり、これが最も大きな問題でしょう。成績優秀者などが海外研修に行くと、研修先の外国人は「日本の販売員が若い」ことに驚いているようです。つまりそれは、日本の投資家が「コンサルティングスキルや専門知識に自信のない販売員から投資型金融商品を買う」ことを、外国人は疑問に思っているということにほかなりません。

とはいえ困ったことに、他の多くの課題以上に、その解決は容易ではありません。シミュレーションツールの補強ひとつとってもおいそれと実現できるものではありませんし、ましてや人材そのものの育成となると、費用以上に膨大な時間が必要になります。

しかしそれは、金融ビックバンの集大成として「銀行の文化」が変わっていく過程において、避けて通ることのできない課題といえるのではないでしょうか。

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